2003.5

2003年5月

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5月12日(月)
  暖かいですね。もう外出の時は半袖です。夜になるとさすがにちょっぴり
寒いですけど。ぼくは暑がりなので、これから夏に向かうことを考えると今
からユーウツな気分になってしまいます。

  昨日、松涛美術館に「江戸の英雄(ヒーロー)大図鑑」展を見に行った。
これは大当たり。武将がカッコよく暴れまわる姿を描いた「武者絵」は、漫
画の原点と言っていいような動的な迫力に満ちている。残念ながら歴史に精
通していないので、一つ一つの場面の意味を十分に理解はできないのだが、
それでも物語の中心に立つ登場人物たちのカッコよさにシビれてしまう。ど
の絵にも、画面を大胆に斜めに突っ切る動きがあるのが特長。人物も、また
背景も、アンバランスな姿勢を必死で耐えているようだ。こういう講図のダ
イナミズムは、近代に入ってからむしろ後退してしまったのではないだろう
か。ほとんど無理と言っていいような姿勢をカッコよくキメる自由感が、江
戸から明治初期にかけて描かれたこれらの絵には張り詰めていたのに、洋画
の時代になるとおとなしい姿勢の像しか描かれなくなるんですね。ポーズの
研究をしたいイラストレーター志望の人などは絶対見たほうがいいと思う。
館内は比較的空いていたけれど、来場した人はみんな目を剥いて見入ってい
ましたね。
  江戸の絵画は本当に面白い。今度は邦楽のコンサートにも足を運んでみよ
うかな。


5月5日(月) 毎年恒例のイメージフォーラム・フェスティバルに、今年もまた足を向け た。いろいろ雑事があったり出勤もしたりでたくさんのプログラムを見るこ とができなかったのが残念。連休中くらいゆっくりしたいところですけどね。 鈴木志郎康さんの「衰退いろいろ2002」は、志郎康さんらしい問題意 識の持ち方が面白かった。飼っている猫の、窓の外ばかり気にする仕草を撮 影したこときっかけに、内側へ向かう意識が、「衰退」しているのではない か、という問題提起が始まる。物事を抽象的な言葉の論理でしっかり言い当 てることに価値を置く意識の衰退ということではないかと思う。そして多摩 美の授業で「嘘の話」を発表する学生の姿と、演劇・舞踏パフォーマンス「 カラザ02」で体を動かす若い人たちの姿が対比される。「嘘の話」の中で は、事物の「あいだの世界」がある、という発表が楽しかった。例えばこち らの世界で机の列があるとすると、そちらの世界の中では、「机と机のあい だ」が列をなしている、ということになるそうだ。「嘘の話」でも、現実を 抽象化して虚構を拵えるのでなく、いきなり疑似論理をイメージ化する発想 がいい。一方「カラザ02」は言葉のない身体パフォーマンスであり、老境 に入りつつある撮影者は若い身体のうねりに目を見張る。現実を意味の体系 の中に納めていくテクストの力が衰退して、感覚的な刺激を主としたイメー ジの力が優っていく、ということだろうか。後半は卒業生の山本遊子さんへ のインタビューで占められる。彼女の実家は、左翼系ジャーナリストであっ た父親の死によって一家離散状態にある(と言っても別に家族関係が悪化し たわけではなく、家族はそれぞれの暮らしを営んでいるに過ぎない)。彼女 は社会的歴史的な話題が日常的に飛び交っていた家の空気が嫌でならなかっ たと語り、実感に基づかない「嘘の話」を拒否する。そして、目的意識に縛 られずにぶらぶら歩く、下校途中の小学生の後姿に惹かれるのだと言う。メ タレベルの思考をなるべく排して、身体感覚を中心とした実感を大事にして 生きていこうということだろう。人間は観念なしには生きられないのだから こうした彼女の考えは、ある意味では逆に現実から遊離したものであるはず だ。そして、ひと昔前なら周囲から批判されていたであろうこの遊離感が現 在では格別珍しいものではなくなっているのを感じる。ドイツの哲学者フル ッサーの『写真の哲学のために』という本は、文明を、画像の時代(古代) ・テクストの時代(近代)・テクノ画像の時代(現代)の三段階に分けて論 じていて「理」というものの基盤の弱体化について警告を発していたが、そ の問題意識と一脈通じるところもあるように思う。但し、志郎康さんは観念 的なものの「衰退」をマイナス面で捉えることなく、時代の自然な推移とし て、それこそ「実感」を中心にして捉えているのがよかった。ただ、できれ ば、猫・学生の嘘話・舞踏パフォーマンス・山本さんの話をつなぐ強い一貫 性を語りの中に込めて欲しい気もした。やや、それぞれのシーンが互いに独 立した印象を持ってしまう。 他には、1本のフィルムを2台のカメラで撮影する(撮影対象は撮影して いる作者自身)という離れ業をユ−モアたっぷりに実現させた奥山順市の「 映画時間のずれ」が楽しかった。会場も湧いていた。実験映画は、こんなふ うにちゃんと観客の反応を計算して作って欲しいものですね。期待していた 大木裕之の新作は面白くなくてがっかり。「移動」をテーマにしたヨーロッ パのアート映画4作品も今ひとつの印象。映画祭の作品は、数をこなして見 なければだめだなあとも思った。 土曜の夜は六本木ボデギータでライブ。余り広くはない店なのに大音響で 演奏してしまいスミマセン。でもお客さんは結構楽しんでくれた模様。ホス トらしき男性を連れて派手なダンスを踊っていたおばさんに目を丸くする。 ホストの人って一目でホストだってわかるものなんですねえ。