2006.1

2006年1月

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1月29日(日)
 ホリエモンが逮捕されてしまいましたね。IT企業の旗手というよりは、割
に素朴な考えの株屋さんなのだということがわかってしまってから、彼には興
味がなくなっていたのだが、逮捕ということになるとちょっと惜しい気もして
くる。お金の力にモノを言わせたとは言え、野球やテレビの世界の閉鎖性を一
般の人にわかるようにしただけでも、それなりの功績なのではないかと思って
しまうんですね。ライブドアの新しい経営陣は、みるからに旧い体質の経営者
という感じだし、フジテレビの人たちは胸をなでおろしているだろうと考える
とちょっと苛々してくる。

 先週、東京文化会館に、ワーグナーのオペラ「神々の黄昏」を聞きに行った。
ゲルギエフ指揮のマリンスキー劇場管弦楽団の演奏だ。ゲルギエフは比較的端
正な演奏をめざしていたと思うのだけど、オーケストラの管楽器奏者たちがメ
チャクチャ派手な名技を披露するので、何だかリムスキー・コルサコフの音楽
のようにも聞こえた。ドイツのオーケストラが、音のブレンドを何よりも重要
視するのに対し、ロシアのオケは各セクションの鮮烈なサウンドがまず耳に届
いてくる。でも、こういう音のスペクタクルを重視したダイナミックなワーグ
ナーもいいものだと思った。歌手では、ブリュンヒルデ役のラリーサ・ゴゴレ
フスカヤがとてもよく、大音響のオーケストラに負けない声量が印象的だった。
それにしてもワーグナーのオペラは長い。3時に始まって終演は9時でした。

 外苑前の「ときのわすれもの」で小野隆生展を、ワタリウム美術館でフェデ
リコ・エレーロ展を見る。
 小野隆生展は肖像画が中心で、人の顔を一旦解剖してから再構成したような、
人をサイボーグ化するかのような描き方に魅了された。
 コスタリカ出身の若手美術家エレーロの作品は、額縁におさまりきらない美
術表現をめざしている。美術館の壁を使って落書きのような作品を描いたり、
館内にハンモックをつるして、休みながら鑑賞できるようにするなど、鑑賞者
が作品に対して身構えるおを防止するための手立てをいろいろ考えている感じ
だ。その意図はとてもよくわかるし、ミロのような明るい色感の作品群はどれ
も好感を持って鑑賞できたのだが、もう一つこちらを侵犯してくるものが弱い
という気もした。緊張より弛緩をめざすのなら、もっと極端に弛緩して、天井
とかトイレとか、美術館のあらゆる空間に気を配るということもして欲しかっ
たかな。

 ぼくがつとめているオンライン書店の話なのだけれど、ポプラ社刊行の二階
堂奥歯『八本脚の蝶』という作品を、対談記事つきで販売しているのでよろし
ければ見てください→「二階堂奥歯『八本脚の蝶』ができるまで」。
 二階堂奥歯という人は、読書好きの女性の編集者で、幻想文学関係の人から
アイドルのように愛されていた人だが、2003年に若くして自殺をしてしま
った。彼女が生前運営していた「八本脚の蝶」というサイトの日録を一冊にま
とめたのがこの本だ。芸術が好き、おしゃれが好き、人に甘やかされるのが好
きの、地方出身のお嬢様(実家は結構なお金持ちらしい)が、一生懸命生きた
軌跡が生々しく記録されていて感動的。女の子が、自分をかわいいコだと思い
込むのも、人に甘えるのも、楽なことじゃないんだな、と思わせるようなとこ
ろがある。批評が鋭いとか、文章がうまいとか、そういうことは特にないのだ
が(センチメンタルすぎて少々鼻につく部分も多い)、自意識過剰な人間が日
常生活を営まなくてはいけない苦労に関する切実さがあり、最後の1ページま
で読ませる力がある。作品として書かれたものでないところがいいと思う。造
本もとてもきれいなので、是非手にとってみてください。

 今日、渋谷のクロコダイルでサルサのライブをやった。2ステージでアンコ
ールは2曲。終わった時は11時を回っていましたね。全部で16曲もやって
疲れ果てましたが、お客さんは盛り上がってくれて嬉しかったです。次のライ
ブは2/12(日)江古田Buddyでやりますのでお暇な方はいらして下さ
いね。


1月15日(日)  友人のピアニスト・岩渕淳一君がライブをやるというので関内のFar O utに足を運んだ。ドラムスの藤田さん、ベースの渡辺さん、アルトサックス の細井さんとの息もぴったりあっていて、楽しい演奏だった。スタンダード・ ナンバーにチック・コリア、キース・ジャレットなどの新主流派の曲を織り交 ぜた選曲だったが、大胆なリズムの伸縮が魅力的だった。アルトの細井さんも 繊細で味のあるプレイを披露してくれた。  ところが、第2部になって、わがロス・ボラーチョスリーダーの大塚俊彦( パーカッション)がゲストで参加するや演奏がガラリと変わってしまう。  大塚さんはラテン音楽出身だから、拍子の頭をはっきりさせてタイトに叩く。 ベース、ドラムはジャズ出身だからリズムの伸縮感を大事にし、多少ズレても 何かのタイミングで要所を合わせるような演奏をする。大塚さんはタイミング で何となくあわせるということを絶対せず、ひたすら正しく直進的に演奏する ものだからさあ大変! 拍子が裏返ってしまったりして、それはもうスリリン グな演奏でした。ああ、でもみんなうまかったし、とても面白かった。ぼくも 一曲トランペットで参加させてもらい、終わったのは10時半をとうに回ってい ましたね。  ぼくも自分のバンドで早くライブをやりたいものだなあ。
1月9日(月)  あけましておめでとうございます。    お正月は実家に帰ってひたすらゆったり過ごしました。例年の通りほとんど 外出もせず、昼寝を楽しみましたね。2日に鶴巻温泉の老舗旅館「陣屋」で家 族みんなで食事(肉料理がとてもおいしかったけれど量が多すぎて、食後立ち 上がれなくなりそうでした)をして、帰りに妹夫婦が家を建てるために買った 土地を見に行きました。家を建てるなんて、いまだ独身のぼくには想像もでき ないようなことですね。夫婦とも美大の出(妹の旦那は高校の美術教師)で家 に陶器が焼ける窯をしつらえるんだ、なんて言ってました。その嬉しそうな顔 を見ていると、ああこういう夢を結晶させたのが「城」っていうんだな、とつ くづく思いました。「城」って城に対する夢が強力でないと決してできない。 ぼくには現実の中に「城」を作るということは無理だなあ、と再認識してしま ったんですね。甥っ子がもうすぐ12歳で、だんだん男の子っぽくなっていく のが面白かった。落語や漫才に夢中で、変に古めかしいことをよく知っている のが微笑ましかったですね。子供といっても、みんながみんな、ゲームに夢中 ってわけでもなさそうです。  先日書肆山田の鈴木一民さんに会って、2時間ほどお茶を飲んだ。書肆山田 はぼくが詩集を出した版元だ。ぼくが詩集のカバーに使ってくれるようにと頼 んだ写真作品を返しにきていただいたわけです。鈴木さんは、結構経営が厳し くて詩集がどんどん売れなくなってきているのだという話をされた。売れなく ても詩集制作の手を抜いたり質を落としたりはできないので、いつも苦しいの だということ。ぼくは、詩人の財布の状態など気にすることはないから、詩人 からどんどん金を取ってくださいよ、というような話をした。詩集が売れない というのは、ぼくには少しも悪いことには思えない。自分の恥ずかしい胸の内 を吐露したものを読んでくれる人には、ぼくの方でお金を払いたいくらいなの だ。詩というのは、読むのが書くのと同じくらい大変で、真剣に読もうとしな いと頭に入ってこない。ぼくは真剣に読む人だけを相手にした作品しか書きた くないし、そうなると店頭でひょいと手にとって買う人の数など非常に限られ てくる。だから出版社には詩集の売上げのことは気にせず、詩集を出したい人 からがっぽりお金を取って、その代わりよいアドバイスをしたり詩人の間のつ なぎ役のような仕事をしてくださいよ、とお願いしたい。詩を通じた芸術表現 のことだけ考えたい人たちの世話役に徹してくださいよ、ということ。単なる 詩の発表など今時、ホームページで幾らでもできる。出版社にわざわざ詩集制 作を依頼するのは、自分の書いた作品の完成度を高めたいからだ。その贅沢な 行為のための資金は、詩人自身が出すのが当然だ。映画を作っている人に比べ れば、詩人が作品に費やすお金なんて安いものだし・・・。  なんていう話を偉そうに、しかも熱っぽく、あの苦労人の一民さんに喋って しまったので、ちょっと冷や汗ものですね。反省してます。だけど喋ったこと は本心でもありますけどね。  それでは今年も一年よろしくお願いします。