2006年12月

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12月24日(日)
 メリークリスマス!ですね。まあ、私にはいつもの日曜日と何ら変わ
りはありませんが。まあ天気が良くて何よりです。
 
 先週、六本木のキューバレストラン・ボデギータでサルサのライブを
行った。ボデギータは、ぼくが所属するロス・ボラーチョスが最初にラ
イブをやった店だが、今月末で閉店する。人手不足が原因というから残
念なことだ。昔、店は恵比寿にあって、それ程広いスペースがなかった
ために、ホーンセクションは厨房に入って演奏をしていたものだ。つま
り、ラッパを吹くすぐ傍で、野菜を刻んだりしている人がいる、という
こと。その頃サルサという言葉はまだ知る人が少なかったが、どこから
ともなく愛好者が集まってきて、いつもライブは盛り上がっていた。
 今回も、61人ものお客さんが詰め掛けてくれた。昔の仲間も一緒に
演奏に加わってくれ、懐かしい気持ちがしました。ボデギータはレスト
ランだから、実はウチのようなオルケスタ編成のバンドにはちょっと手
狭なのだけれど、お客さんはラテン音楽をよく理解している人が多いし、
料理はもちろんおいしいしで、ここがなくなってしまうことはとても淋
しい。今までどうもありがとうございました。

 そのボデギータで、バイオリンのsayakaさんがリーダーをつとめてい
るバンドCHAKALA(チャカラ)のライブを見た。ウチのバンドに負けず
劣らず盛況で、たっぷり楽しめましたね。バンドのメンバーの息があっ
ていて、細かいキメもバッチリ。
 ライブではもう一つ、ぼくがトランペットを習いに行っている原朋直
さんのカルテットを新宿ピットインで聞く。共演者が若く、ダイナミッ
クな演奏だった。ただ、バラードの時、原さんがテーマを吹き終わって
ピアノトリオの演奏になる時、ちょっとバラけた感じになってしまって
緊張感がダウンしてしまったのが残念。お互いの出方をうかがい過ぎか
な。この辺は若さが出てしまった感じもしたが、その分アップテンポの
曲の迫力は満点と言ってよかった。

 ライブというのは不思議ですね。CDでは絶対味わえない、空気の振
動が感じられる。音楽というものが、「振動」の芸術であることがわか
るわけです。家でCDばっかり聞いている人は、是非ともたまには生の
演奏を聞きにいくことをオススメします。

 昨日は詩人の薦田愛さんの出版記念会。ぼくはジーパンをはいたラフ
な格好で行ったが、皆さん正装に近い服装でちょっと浮いてしまいまし
たね。詩人の渡邊十絲子さんや毛利珠江さんと実に久々にお会いでいて、
楽しい会になりました。薦田さんの着ていらした緑の着物が美しかった
のが印象的です。


12月10日(日)  余りに寒いので、夜にサルサバンドの練習に行く以外はずっと家の中 に引きこもっていました。じゃあ寝てばかりの収穫のない一日だったか というと、そうでもない。  前月、ちくま文庫の『鼠坂 森鴎外集』が面白かったという話を書い たけれど、同じ東雅夫の編集<文豪怪談傑作選>シリーズの『生霊 吉 屋信子集』を読了することができた。  吉屋信子は大正―昭和期に活躍した小説家で、少女小説の人気作家と して知られている。ぼくは名前は知っていたけれど、今まで読んだこと がなかった。先入観で、甘ったるい作風かな、と思っていたのである。 ところが、違った。文章は情緒豊かだけれど、人の運命というものを感 傷性を排して、リアルに、ドライに描くことのできる人だったのだ。彼 女の小説は、市井の人々が「たった一回しかないにもかかわらず思い通 りにならない人生」という不条理と戦っていく様を描いたものである。 「生死」では、南方の戦線で死んで「霊魂」になったと思い込んだ男の 不思議な感覚を描き、「黄梅院様」では、時代に取り残された祖母を敗 戦のニュースから遠ざけるために家族が蔵に押し込めるという優しい残 酷さを描く。どれも、いわゆる「ホラー」とは違うけれど、人生の不条 理性と必死で戦っていくうちに、社会性の外に押し出されてしまった人 々の「幽霊」のような存在性を鋭く描出している。もってまわった言い 回しを避けた、具体的できびきびした筆致にも好感が持てる。  このシリーズが、<文豪>と名がついているけれど、むしろ<文豪> を文豪扱いするのはやめ、先入観を捨てて、一人一人の作家が生の不条 理性とどう向き合っていたのかをまじめに「読む」ことを読者に求めて いるようだ。大作家ほど、作品が素直に「読まれる」ことがなされてい ない、その現状を打破する試みではないかと思う。最終巻の『泉鏡花集』 もこれから手をつけよう。
12月5日(火)  寒くなってきましたね。ぼくは厚着というのが余り好きでないので、 我慢できなくなるまで服を重ねて着ることをしないけれど、さすがにマ フラーが欲しくなってきました。でも寒くなるとコーヒーがうまい!帰 宅前に喫茶店によっておいしいコーヒーを飲みながら本を読むのが、最 近のちょっとした贅沢です。  日曜に東京オペラシティ・コンサートホールでスクロヴァチェフスキ ー指揮ザールブリュッケン放送響の演奏でベートーヴェンの交響曲を聴 く。1、4、5番をやった。総じてテンポが早く、感情が溢れて出して くるような情熱的な演奏だった。ルバートをたっぷり取ったあと急激の 元の速いテンポに戻ったりするからオケはついていくのが大変だったと 思うけれど、どの曲もすばらしい出来だった。1番がモーツァルトより もむしろシューベルト寄りの音楽に聞こえたのが面白かった。それにし ても、あのハ短調の交響曲は、いくら耳慣れていてもいつでも感動でき るというのがすごい。今回も、聞いていて涙が出てきてしまって、ちょ っと恥ずかしかったですね。こんなにイメージが強固でゆるぎなく進む 音楽というのは他にないんじゃないかと思う。  帰りに著述家の守屋さんと集英社の田沢さんと軽く飲み、業界の不景 気さをちょっと嘆いたりする。  木曜は詩の合評会に。水嶋きょうこさんの幻想的な詩がすばらしかっ た。今までの彼女の詩は、面白いけれどやや観念的すぎるかな、と感じ られていたのだが、今回の作品は動きが鮮明でピンとくるものがあった。 また会が終ってから、北爪満喜さんから詩のグループ展「ただいま」に 出品したという写真詩集を見せてもらい、その出来の良さに仰天した。 繊細な色彩の写真と柔らかな詩の言葉がよくあっており、造本も丁寧で いつまでも眺めていたい想いに襲われた。