2007年2月

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2月28日(月)
 ここしばらく仕事が忙しくてちょっとサボッちゃいました。これを
書いているのは実は3月になってからなのですが、2月後半の出来事
をさらっと記しておきます。

 24日(土)、「チェコ絵本とアニメーションの世界」展を見るた
めに目黒区美術館へ。チェコの絵本の20世紀の流れを追ったもの。
絵本の原画・アニメーション・数々の創作資料が時代別・作家別に整
理されて、数多く展示されている。ぼくは、実は絵本が結構好きで特
に東欧の絵本やアニメには目がない。郷愁を誘われるくらい、空気が
肌に合っているというか。この展覧会はどちらかというと絵本を美術
として鑑賞しようという意図のもとに企画されているが、やはり絵本
は子供のものだな、との想いを強くした。子供たちを喜ばせるという
目的がはっきりあって創られているから力がある。子供の満足のため
に手を抜かないという文化があり、そのためにアーティストたちが考
えに考えて創作に励んでいるからこそ、大人の鑑賞にも耐えるのだろ
う。アニメーション作品で著名なトルンカ他、現代美術の技法をどう
やって吸収して絵本の制作に生かしている様が見て取れたのが面白か
った。アニメーションの上映も行っており、ご興味のある方は是非足
をお運び下さい。

 25日(日)は、女優で演出家のnorikoさんとお昼をご一緒させて
いただいた。演劇の発表会や映画の上映会で、何度かお会いしてメー
ルのやり取りをしていたのだが、一度ゆっくりお話しする機会を持と
うということで二子玉川で待ち合わせたということ。向かい合って座
ってみると、おきれいなことに改めてびっくり。やっぱり舞台に立っ
ている人は違いますね。表情に力があって、オーラが感じられますね。
芸術の話から世間話まで、3時間ほども話しこんでしまいました。身
体というものを基軸に演劇を考えているという話が印象的。三浦雅士
の『考える身体』が面白いと勧められ、帰ってから早速注文する。何
か一緒に表現の仕事ができるといいなあと思いました。

 27日(火)は、詩人の薦田愛さんの朗読を聞きに銀座へ。薦田さ
んは美しい着物姿で現れて、詩集『流離縁起』からの数編を1時間余
りにも渡って朗読した。独特な凝った言い回しを多用した詩集だから、
朗読は結構難しかったことだろう。イメージが文字通り空中で紡がれ
ていくような感じだった。ただ、どうせならもっと芝居がかって朗読
したほうが映えたのではないだろうか。決してパワー不足ということ
ではないのだが、淡々と読む、いわゆる現代詩の朗読では、薦田さん
の言葉の特異性が十分生きてこない気がするのだ。次回は、思いきっ
て、詩の言葉を「演じる」ような仕方で朗読をして欲しいものだなあ、
と思った。

 会社での仕事が本にまとまった『てのひら怪談』だが、その著者の
一人、田辺青蛙さんと仕事の関係でお会いしてメールのやりとりをす
る機会があり、未発表の作品をたくさん送っていただいた。田辺さん
はニュージーランドで美術を学び、妖怪マニアであり、コスプレの趣
味もあるという面白い経歴の人だ。イメージがイメージを次々呼びこ
んでいくような作品は、散文詩のようで奔放さに満ちている。気取り
がなく、遠慮がない書きぶりに好感を持つ。いつか単著を作りたいと
書いていたが、頑張って欲しいものです。


2月12日(月)  ブラジルの女性アーティスト、アンドレア・ヴァレジョンの個展を 見るために原美術館へ。これはすごく刺激的だった。無人のプールや 浴槽のタイルが水に揺らめく様を描いた作品に驚く。麻薬に酔ったよ うな意識の軽い混濁が、水の揺らめきによってうまく表現されている ように感じた。無機的で安全に見えるはずの風景が、画面の中にはい ない主観の不安定性の暗示により、とてつもなく危険なものに見える。 ホラーやサスペンスにやや近い空気も感じた。  彼女にはもう一つ、「絵画を壊す絵画」の系列の作品がある。中国 の水墨画を模した絵(中国文人の生活を描いた画面の中に、騒々しい ブラジルの民衆が紛れ込んでいる)にグロテスクな裂け目をいれたも の。海を描いた日本画の前に、割れた陶器を晒したもの。乱交の様子 が静謐な文人画の画面に落とし込んだもの。壊し方が極めてエレガン トで、故に一層、毒が効いているように感じられた。  原美術館は、現代の個性的なアーティストを、スペースをゆったり 使って紹介してくれるからありがたい。アンドレア・ヴァレジョンの ような知的な仕掛けを備えた作品の場合、じっくり考える時間を与え てくれる。  帰りに渋谷のビックカメラに寄り、ローランドのデジタルオーディ オレコーダーを買う。生録にぴったりのようで、早く使ってみたい。
2月11日(日)  あったかいですねえ。2月とは思えない。ジャンパーを着ていると 汗ばんできてしまうほどだ。  日曜日、女優&演出家のnorikoさんのお誘いで、彼女が主催者に加 わっている「血族」(製作:松永勉 監督:貫井勇志)上映会に足を運 ぶ。「血族」は自主制作映画だが、商業映画に負けないような本格的 な作品にしようと、多くの人の無償に近い協力を得て作られた作品で ある。俳優も素人を多く使ったようだが、プロの手が必要なところは 決して手を抜かず、音楽はロス・アンジェルスの優秀なスタッフの手 を借りたという。  物語は、伸(しん)という、都会の喧騒に疲れた青年が祖母のいる 田舎に逃れるところから始まる。静かな環境の中で目をつむって休ん でいると、不意に、戦国時代の光景が意識の中に開けてくる。野武士 と必死で戦う村人たち。泥まみれになりながらの凄惨な戦闘が繰り広 げられ、野武士は全滅するが、村人の男たちも多くの犠牲者を出す。 伸は目を覚まし、戦慄するが、いつもと変わらぬ祖母の笑顔に心が和 んでいく。  戦闘シーンがすばらしく、「七人の侍」を思わせるリアルさがあっ た。とても低予算の自主制作映画とは思えない出来だ。但し、冒頭の 男の内面を描くシーンがやや類型的で、都会の生活にどうして疲れて しまったのかがよく掴めなかったのが残念だった。  質疑応答を経て、戦争体験を持つアメリカ在住の日系人・日本人た ちの姿を描いた短篇「Pawns of the King」が上映された。これは、 過去に対するわだかまりと和解をけれん味なく描いた佳品だった。  会場は鎌田区民ホールの一室で、こうした地域の公的施設を活用し て表現活動の発表を行うのは重要なことだと思う。  美しい着物姿で現れたnorikoさんは、巧みに司会進行をこなして上 映会を成功に導いていたが、こういう社交的な気質を持った人がいる のといないのとでは大違い。詩人には余りいないタイプですね。  土曜日は渋谷に引越ししたジャムハウスへ。ジャムハウスは、ジャ ズのジャムセッションの店で、前は目黒にあったが、ビルの立替えの ために一時閉店していた。お客さんの入りは10人くらいでまあまあ といったところ。まだ、再開したことを知らない人も多いのかな。音 響は良いし、そこそこ広いので、また行こうと思う。「FOUR」を速い テンポで演奏したら、途中でリズムを見失いそうになり、修行の足り なさを痛感。雪辱を果たしたい。
2月4日(日)  江古田のBuddyでサルサのライブ。LA LUNA OCHO とのジョイントで、久々に先にやらせてもえらえたので、演奏が終っ た後、ゆっくりビールを飲むことができました。いやあ、対バンあり のライブの時は、先にやるのに限りますね。後にやると、出番がくる までお酒が飲めないですから(笑)。このライブハウスは、スペース も広いし、PAも整っているからやりやすい。ダンスの好きな人は心 おきなく踊れるという利点もある。ただ、江古田というとちょっと都 心から遠いというイメージがあるのかなあ。お客さんがいつもよりち ょっと少ないんですね。駅のすぐ傍にあるし、本当は交通の便もすこ ぶるいいんですけどね。  紀伊国屋新宿南店の美術書売場で開催しているYOUNG ARTISTS' BOOKS FAIRを見に行った。詩人や美術家による、手作り本のフェアで ある。こういう商業的な効率性に不確定要素がつきまとう企画がちゃ んと通ることが、まずはすばらしい。紀伊国屋書店の現場の方の努力 と幹部の方の英断に拍手。  本とか美術とか言う前に、何か「夢」のようなものが売られている という印象を持つ。作った人の思い入れが尋常ではないのだ。大切に 扱わないと壊れてしまいそうなものも多く、その壊れやすさ自体も好 ましく感じられた。みずたさやかさんの小詩集と、杉澤加奈子さんの 言葉入りの靴下(!)を購入。  若いお客さんが結構集まっていて、熱心に手に取っていました。  さて、一つ宣伝。ぼくがスタートから関わってきたビーケーワン怪談 大賞に投稿された作品が、何と単行本になりました。
てのひら怪談
てのひら怪談
posted with 簡単リンクくん at 2007. 2.10
加門 七海編 / 奉 徹三編 / 東 雅夫編
ポプラ社 (2007.2)
通常24時間以内に発送します。
 つとめているオンライン書店で、お客様へのサービスとしてオリジナ ル怪談のコンテストを、毎年夏に開催していたところ、思いがけない数 と質の作品が集まった。ポプラ社さんから声がかかり、このほど単行本 化が実現したというわけです。作品の受付と掲載はブログで行い、投稿 されるとすぐ読めるようになっている。  作品はテーマも文体も実に様々。実話怪談のようなものもあれば、落 語のようなスタイルで書かれたものもある。各人の言葉に対する感覚が とてもよくわかる。誰の作品がいい、というよりも、サイト上の場を共 有している人たちが、互いの作品に刺激を受けあいながら、楽しんで書 いたという感じがいい。顔を見知らぬ者同士の、一種の共同制作として 成った作品群と言えないだろうか。  ぼくには、この本に収められた作品から、現代詩に近い匂いを感じた。 単にオハナシを書くというのでなく、言葉の個性を研いでいこうとする 態度が見受けられる。是非、お手に取ってみて下さい。