2007年3月

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3月24日(土)
 イメージフォーラムの卒業制作展を3プログラム見た(21日)。
久しぶりに個人映画(この名称が適切かどうかはちょっと疑問だが)
を見たけれど、やはりいいものだ。今回は、残念ながら胸を震わせる
ような作品には出会えなかった。でも、いいのだ。誰にも言えない何
かを訴えようとしているかのような姿勢は、作品群のそこここに見受
けられた。普通他人の顔をじろじろ見ることはできない。できないと
いうか、失礼にあたる。しかし、表現の形態を取ったものは幾ら凝視
してもいいことになっている。そして、他人に凝視されたい欲望が人
を作品の制作に向かわせる。つまり、個人映画の魅力とは、多分、見
てはいけないものを「見せる/見る」ことの緊張感からくるものなの
だ。こうした緊張感は、小津の映画からもタランティーノの映画から
も決して味わうことはできない。エンターティメントの要素が加わる
と、「その人」と対峙するナマな感触はいきなり薄まってしまう。イ
メージフォーラムの卒展は、審査を受けた上で上映されるものではな
いから、中には拙い感じの作品も混じっている。別に「傑作」を鑑賞
しに足を運んでいるわけではないし、それも含めて、これらの作品群
を鑑賞することは、ぼくにとってとても大事なことだ。

 特に印象に残った作品は、大貫裕美の「冬の蝶」(ある女の子が、
冬に見つけると幸せになれると聞かされて、蟻を探しに路上や公園を
うろうろする)、千葉雄太の「ありふれたカップル」(恋人のいる男
女にそれぞれの彼女・彼氏との関係をインタビューするうち、ちょっ
と異常な話が聞き出せてしまう)、高野美奈子の「blue」(冬の雪原
に青い布をまとった女が眠っていて、男が抱えて歩く)、古川徹の「
3分20秒と永遠」(8ミリフィルムが製造中止になると聞き、8ミ
リカメラを持って戸外をあてもなく撮影し、また過去に撮った映像を
回顧する)、本野裕の「時空サイクリング」(東京から実家まで、自
転車で帰る途中、過去の自分のイメージを一つ一つ蘇らせていく)、
千葉麻里子の「チョッキン」(中絶したばかりの美容師の女の子が、
一人田んぼの広がる戸外に出て、用水路に自分の髪を切って落とす)
など。
 物語のモチーフになりそうなネタを提示するが、物語に発展する寸
前のタイミングでエンドを迎える、という作品が多かった。物語を作
りきらない未熟さによるのか、物語を作ってしまうことへの不信感か
らくるのかはわからない。両方かもしれない。見ていてすごく頼りな
い感じが沸いてくるのだが、同時に、この頼りなさはある必然性を伴
っているように思えた。

 会場で鈴木志郎康さんにお会いした。足の具合が良くなく、手術す
るかもしれないとのこと。無理をなさらないで、じっくり治療されて
欲しいなと思った。

 今日はラテンバー「LEON」で、村上店長の結婚パーティがあり、
ボラーチョスも演奏した。村上さんは、ラテンダンスを長いことやっ
ていて、奥さんになる人もダンス仲間の人だった。当然、客もサルサ
ダンス関係者が多く、やたらとノリのよいステージになりました。お
客さんが勝手に盛り上げてくれるので(!)、演奏する方としては楽
でしたね。うちの歌手陣のダンスの振り付けを、見てすぐ覚えてマネ
するところなどはさすがという感じ。村上さん、ご結婚おめでとうご
ざいます。


3月18日(日)  久しぶりに詩の合評会に行った。参加者は、長田典子さん、川口晴 美さん、白鳥信也さん、水嶋きょうこさん、森ミキエさんとぼく。  ぼくの新作も含めて5編の作品を読みあった。特に、水嶋さんの、 「砂猫」という詩が面白かった。触ると砂のように崩れてしまう“砂 猫”についての妄想を持った男が、電車で逃げているうちに再び妄想 に捕まってしまって殺人をしてしまうという詩。発話者の揺れ動く気 持ちが周囲の光景の細かな描写の積み重ねの中で無理なく表現されて いて、異常心理がごく自然のものとして受け取れた。帰りに久々に喫 茶店アンカレッジに寄って喋る。2時間以上も談笑してしまいました。 詩人と話をするのは面白いもんです。うん。  女優のnorikoさんに教えていただいた2冊の本を読了する。  三浦雅士『考える身体』は、舞踏、特にバレエとモダンダンスの話 題を中心に、「身体」の概念で芸術や生活を再考するというもの。建 築も身体芸術だという指摘に唸る。芸術の鑑賞とは、完成品を愛でる のではなく、自らの生きている身体で生きている時間に触れていくこ とだと受け取った。「もの」でなく「時間」を基軸に据えると、芸術 は瞬く間に「行為」や「生活」に近づいていく。認識の転換を迫るも のとして、興味深く読むことができた。  もう一冊、マーガレット・エドソンの戯曲『ウィット』は、ジョン・ ダンを研究する女性大学教授が子宮ガンに冒され、入院し、死に至る までを描いたもの。主人公は仕事一筋に生きてきて、人との関わりを なるべく絶ってきていたが、病気になって初めて、寂しさを感じる。 劇は、主人公の自身のナレーションによって状況説明がなされるとい うユニークな設定だが、最初の頃の気丈さ・頑固さが徐々に失われて いき、周囲の人に甘えたい気持ちが抑えきれなくなってくるところが 感動的だ。死を目前にした時、初めて自分が社会的存在であることに 気づく―ぼくのような独身の都市生活者にははっとさせられるところ が多かった。  渋谷のジャムハウスでジャズのセッション。15人程の客がいたが、 ギターの大和さんの巧みな進行でまんべんなく演奏の順番が回ってく る。友人の小宮山さん(ギター&ベース)と休憩時間にモー娘。の新 メンバーの話。何と日本語も喋れない中国の女の子二人で、これから モー娘。は中国進出を目指すのだという。うまくいくんですかね。ぼ くは実はモー娘。には全く興味がないのですが(笑)、どうせならヨ ーロッパやアフリカ、オセアニアからもメンバーを募って欲しいもの です。
3月11日(日)  すっかり暖かくなって、もう春という感じですが、今年の夏はもの すごい猛暑らしいので今から気が重いです。  昨夜は、高校一年のクラス会があった。会場は東京ガス横浜クラブ で、クラスメイトの仕事関係のコネで決まったようだが、飲み物の種 類も豊富で食事もおいしく、広さも手ごろで、いい感じだった。  今回のメインイベントは、担任だった岩田先生をお呼びしたこと。 母校の江南高校をやめたあとも教職を続け、東京と大阪を行ったりき たりの生活をされているとのこと。ダンディで有名な先生だったのだ が、今も相変わらずのスマートさ、カッコよさでびっくり。64歳に なられているとのことだったが、枯れた感じが全然ないんですね。や りたいと思ったことは即、実行する、を生活信条にされていると仰っ ていて、見たいもの・食べたいものがあればすぐ車を飛ばして駆けつ けておられるとのこと。関西方面は、独自の地方文化があるからさぞ 楽しいことでしょうね。  二次会では2時間ほども互いの近況を語り合ったが、この年になる とみんな子供の話をするんですよね。ぼくは独身のままだから、ちょ っと羨ましかったり淋しかったり、という気分にもなりました。高校 時代の仲間と今でも野球チームを作っているなんて話も聞き、みんな 意外と地元を大事にしているのがわかったのも驚きでした。  まあ、みんなはみんな、ぼくはぼくってことです。  女優・演出家のnorikoさんに教えていただいた三浦雅士『考える身 体』を半ば読み終える。「身体」を軸に、手際よく文化論が展開され ていて楽しい。これから最終章を読むところです。