2008年11月

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11月30日(日)
 恩師である詩人の鈴木志郎康さんが萩原朔太郎賞を受賞されたことを祝う
会に足を運ぶ。
 対象詩集の『声の生地』は、平面な活字の中に閉じ込められていた言葉を
時空の中に自由に放つのような書き方が印象的な詩集だ。受賞によってたく
さんの人に読まれる機会ができることは喜ばしいことと思う。
 予定の15時少し前に渋谷のレストランに到着。志郎康さんはもういらし
ていて、挨拶。東急BEゼミや早稲田大で詩を教わった20名ほどの人が集
まった。しばらく顔を合わせていなかった中村葉子さんや野村尚志さんとも
話ができて嬉しかった。
 志郎康さんは、文学賞を受賞することの意味をいろいろな角度から話され
た。志郎康さんのことで、受賞を単純に名誉に思うということは全くなくて、
その制度的な面を考察するところが印象的だった。
 途中、お世話になった詩人たちが一言ずつ挨拶を述べる場面があったが、
一人ひとりの「志郎康観」が熱く語られて面白かった。
 その後喫茶店「セピアの庭で」で雑談し、お開き。とにかく懐かしい仲間
に会えて良かったです。


11月29日(土)  用賀の焼き鳥屋兼ライブハウスの「キンのツボ」で、溝口ジャズ同盟のメ ンバーで内輪のライブ。11/29は「いい肉の日」だから、焼き鳥を食べ ながら音楽を楽しもう、という趣向だ。  ライブといっても、練習してきた幾つかの曲の他はジャムセッションで、 初めて顔を合わせる人もいた。「キンのツボ」はご飯がおいしいことがよく わかったし、話も弾んだし、演奏も楽しめたしで、いいことづくめの夜とな った。  溝口ジャズ同盟のセッションは今回で何と80回目。主宰の千葉香織さん には心からの感謝を捧げたい。
11月24日(月)  渋谷で待ち合わせ、林・恵子さんから豆本フェスタの時に作ったという作 品を渡してもらう。朗読会の「お土産」としてつくった「てんとうむし三態」 を豆本に作り替えたものだ。てんとうむしが羽を開いたら豆本が出てくる形 になっている。林さんの器用さとユーモアのセンスに目を丸くする。林さん には毎週、800字の怪談作品を送ってもらっていて、言葉の表現もだんだんこ なれて巧みになってきている。  和食レストランでご飯を食べたあと、一緒にBunkamura・ザ・ミュ ージアムで開催中のアンドリュー・ワイエス展を見に行く。「クリスティー ナの世界」のような代表作が幾つか欠けていたのは残念だったが、最初期か ら90年代までの作品が数多く展示されていて満足した。日常的な題材を写 実的に描く画風だが、対象の意味合いをいろいろな角度から分析して、一作 一作技法を工夫しながら制作をしているのがわかった。一枚の画面の中に、 厚みのある物語を感じさせるやり方は、まるで映画監督のようだ。同時代の 前衛的な芸術の動向もきっちり押さえているように感じられた。ワイエス風 の詩もいつか書いてみたい、と思ってしまったほどだった。  見終わって、喫茶店「アンカレッジ」に入り、1時間ほど雑談してから帰 宅する。この喫茶店も、20代の頃からきているが、いつ来ても感じが良く、 気に入っている。
11月17日(月)  ホラー小説大賞長編賞を受賞された飴村行さんのインタビューを行うため に角川書店へ。幻想文学評論家の東雅夫さんと待ち合わせ、角川書店のロビ ーで待っていると、編集の山田さんと生真面目な会社員風の風貌の飴村さん が迎えにきてくれた。  東さんの巧みな質問のおかげでインタビューは快調に進んだ。飴村さんの 受け答えが非常に明快なのに驚かされる。作品は破天荒な内容だが、書いて いる本人の意識は明晰で、影響を受けた作家や生活の様子についてエネルギ ッシュに語ってくれた。12月中旬にはインタビュー記事を公開することが できるように思う。  受賞作の『粘膜人間』だが、暴力をふるう巨大な小学生の弟に恐れをなし た兄たちが、河童に殺しを依頼するというもの。女子中学生への拷問やレイ プのシーンがあるので、「物議を醸した」ということだが、丸尾末広や宮西 計三のマンガや小沼勝の映画に親しんだことのある人であれば、特に違和感 はないだろう。  この作品は、社会規範から自由になることへの解放感を表現したものだと 感じた。  登場人物たちは、皆、一般的な道徳に背を向けている者ばかりである。社 会道徳や法でなく力が支配する世界、そこは人権が保証されていないがため に恐怖が充満する世界であるが、同時に、人が「人権」という名の枷から解 放された世界でもある。  社会規範に縛られない自由な(特殊な意味での自由だが)世界を描くにあ たって、作者が採用したのは、細部を構築して全体を築きあげるのでなく、 つまり話を精緻に発展させるのでなく、場面やイメージを並列的に配置して いくというやり方である。リアリズム小説では細部が全体に奉仕するが、『 粘膜人間』においてはむしろ全体が細部に奉仕する。鮮烈なイメージ同士の ぶつかりあいが醸しだすグルーブを味わうことが、本書の鑑賞の肝ではない だろうか。ルーセルの『アフリカの印象』の読後感に通ずるものがあるよう に感じた。  そう言えば、短篇賞を受賞した田辺青蛙さんの『生き屏風』もイメージを 重視した作品だった。奇妙奇天烈な設定なのに、たいした背景の説明もなく、 しかもそれで違和感が生じない。宮台真司の言葉を借りれば、「社会」でな く「世界」を描いた作品だということになるだろう。  こうした傾向の作品は今後増えていくのではないかと思う。逆に言えば、 場面やイメージの提示が、モチーフの弁証法的な発展/構築に優先していく ような作品をしっかり読み解けない限り、新しい文学を論ずる資格はないの ではないかとさえ感じられた。その意味で、『粘膜人間』と『生き屏風』の 受賞はとても喜ばしい「出来事」だったように思えるのである。
11月16日(日)  原宿クロコダイルでサルサの本番。久しぶりの2ステージのライブだ。今 回は「ウィリー・ロザリオ・メドレー」「ラテンお国巡りメドレー」(リズ ムパターンの異なる曲を集めた)を核に、たくさんの曲を演奏した。いつも の3割増しくらいの曲数だったため、セーブしながら吹いていたがそれでも バテてしまった。うーん、残念。それでもお客さんは、新しい試みに盛り上 がってくれて助かった。今日は新調したシャツを着て演奏したが、緑のと赤 のと、派手すぎず地味すぎずで気に入っている。  来て頂いた皆様、本当にありがとうございました。  次のライブは12月14日築地のキューバンカフェ。これが年内最後のラ イブです。
11月15日(土)  ぼくの部屋はアパートの一階にあるのだが、早朝から庭に居ついている野 良猫が騒ぐのでまたついついミルクをやってしまう。懐いてきた猫は部屋に 入れたりしているのでちょっとヤバイ感じもするのだが、かわいいので仕方 がない。  2時頃、「回文展」を見に外苑前ギャラリーDAZZLEへ。文字通り、回文を テーマにしたイラストやオブジェが並ぶ。知人の林・恵子さんも出品してい て、昆虫回文の作品を披露していた。回文といってもかなり無理めなものも あり、林さんの作品には「かめむしのたのしむメカ」なんてのもあった。き れいにできた作品も面白いが、実は強引なもの程面白かったりする。年齢を 問わず、誰でも気軽に楽しめそうなところがいいなと思った。  帰り、「ときの忘れもの」で植田正治の写真展を見る。植田正治の作品は 昔から大好きだが、今回はかなり古い作品も展示してあって興味深かった。 「海辺の少年」と題する作品は1930年代に撮られたものだが、リアリズ ムの衒いのない作品で、ひとめで好きになった。シンプルな中にも緊張感が 漂っている。  そのあと渋谷に行って詩の合評会。ブリングルさんの作品2編が刺激的だ った。行為者と対象が前触れなく入れ替わってしまうような発想が実に新鮮。 被害者意識の強い詩が蔓延する中で、自分が加害者でもあることを隠さない 態度は貴重だと思う。女性性や親子の問題をストレートにテーマにしている が、安易に読者に共感を求めず、自分をモノのように突き放して見ているの でいやらしさがない。ただ、ところどころ現れる現代詩っぽいレトリックは 不要かな、とも感じた。  7時半に溝口のスタジオに行って、29日にやる内輪のライブのためのリ ハを行う。メンバーの飲み込みがいいので、何とか形になりそうだ。9時半 に終って軽く打ち上げに。のつもりが話が弾んで11時過ぎまで飲んでしま い、12時過ぎに帰宅。ちょっと仕事をして寝る。
11月6日(水)  『TAPDO!コレクション3〜世界が笑いました〜』を見に北沢タウンホー ルへ。ジャムセッションでお世話になっているピアノの千葉さんが音楽を担 当しているタップダンスのグループの公演だ。会社がひけてから駆けつけ、 最初の演目の途中から見る。このグループは、タップと同時にコントをこな す。今まで何度か見たが、今回の公演がダンスとコントのバランスが一番良 かったように思う。鏡を隔てて、人物とその影のやりとりを描いたコントが アイディアが斬新でとても面白かった。また、速いテンポの音楽に合わせて 全員でタップを踏むシーンはスリリングで盛り上がった。千葉さんも演技に 参加(!)して、知人として嬉しかった。とにかく、見るたびに趣向を凝ら しているので飽きないし、技術が堅実なので安心して鑑賞できるのが良い。
11月3日(月)  日本ホラー文学大賞の短篇賞を受賞した田辺青蛙さんへのインタビューの ため11時に会社へ。田辺さんはビーケーワン怪談大賞の常連投稿者であり、 ぼくもこれまでに何度かメールのやりとりをしたことがある。  コスプレイヤーである田辺さんは、授賞式のパーティで身に着けていた綾 波レイのコスプレをしていただき、東雅夫さんのインタビューに答えること になった。コスプレ自体は良いのだが、写真を撮られる時に恥ずかしがって いるのはイカンですね。好きでコスプレをしているのだから、決めポーズく らい考えておいて欲しいものです。それはともかく、田辺さんの作品と育っ てきた環境とは密接な関係があることがわかって、興味深かった。  その後、トークイベント「お化けと文豪と古本と」に足を運ぶ予定なのだ が、田辺さんも行くというので二人でお茶の水へ。ご飯を食べながら、本を 刊行後の苦労やこれからの創作のスタンスなどの話をうかがう。家族の方は 怪談が苦手なので、田辺さんの作品を読んでいないそうだ。  トークイベントは神田古書会館で行われた。東雅夫さん、版画家の金井田 英津子さん、作家の加門七海さん、装丁家の山田英春の間で、怪談文学と本 の面白い話が交わされる。加門さんの「怪談には人間の品性が出る」という 発言が面白かった。金井田さんは、「怪談文豪傑作選」の表紙を描くにあた って、毎回ゲラを綿密に読んだとのことだった。「怪談文豪傑作選」の原画 は、孤独感のようなものが滲み出ていて、想像以上に深みのあるものだった。  すずらん通りのブックフェスティバルを覗いて暇を潰した後、「てのひら 怪談」の作家たちと落ち合って飲む。文学を創作する者同士の横のつながり が確認できて嬉しかった。「ビーケーワン怪談大賞」では、投稿された作品 全てがブログ形式で公開される。仲間の作品を読みあうことで互いの意識が 研ぎ澄まされるところが特長だと言えよう。文学は孤独な営為であるが、仲 間がいるとその孤独は共有ができるものだ。  9時頃お開き。帰って翌日の仕事の準備をして寝る。
11月2日(日)  林・恵子さんからいただいたタダ券で練馬区立美術館の山辰雄展へ。  挿絵のような、物語性の豊かな作品群だった。重厚なテーマの作品もあっ たが、少女をかわいらしく描いた軽いタッチの作品のほうが好きだ。テキス トを入れたらとても良い絵本になるような気がした。晩年に近づくにつれ抽 象度が増していき、それも深い味を醸し出しているように感じられた。  夜はゴールデン街のバー「ボニータ」三周年の会でサルサの演奏をする。
11月1日(土)  ジャムセッション仲間の富里さん(ドラムス)の結婚式出席。  場所は六本木の乃木会館で、式は本格的な舞楽つきの豪華なもの。笙や篳 篥や和太鼓を生で聞く機会など滅多にないけれど、いやあいい音でした。普 通に楽しんでしまいました。  披露宴もまた豪華。料理も次から次へと出てくる。これはお金かかってま すねー。でも一生に一度のことだし、余計な心配でしょう。  新婦のはるかさんの着物姿はとてもきれいだったし、大勢の新郎新婦の友 人や職場の人が心のこもった挨拶をして、気持ちのいい披露宴だった。新婦 がお囃子のサークルに入っていて、その人たちが笛でお祝いの演奏をしたの が特に心に残った。溝口ジャズ同盟の千葉香織さんもピアノでお祝いの曲を 演奏した。  披露宴終了後の二次会は有名なライブハウスのサテンドール。  一転して若い人中心のくだけた会になった。新郎新婦は音楽で結ばれた仲 で、新婦のはるかさんもトロンボーンを吹く。溝口ジャズ同盟のメンバーも 新郎新婦と一緒に楽しく演奏しておひらきとなった。  長い一日だったが、新郎新婦の幸せそうな顔が見られてとても良かった。  いつまでもお幸せに。