2010年8月

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8月29日(日)
 お昼に食べた焼きサンマがどうも良くなかったらしく、食あたりのような
症状になってしまった。体調を整えようと散歩に出た。歩いているうちは調
子が良かったが、帰るとまた気分が悪くなってしまった。
 早目に布団を敷いて休み、9時からNHKBSのドラマ「妖しき文豪怪談」
を寝ながら見る。
 このドラマは、仕事でお世話になっている評論家の東雅夫さんが監修して
いるもので、川端康成「片腕」、太宰治「葉桜と魔笛」、芥川龍之介「鼻」、
室生犀星「後の日」を取り上げている。どれも非常に丁寧な造りのドラマで、
劇場で改めて観たくなるような質の高さだった。監督たちは原作をよく読み
こんだ上で、イマジネーションを膨らませている。役者の演技も皆すばらし
かった。ドラマの舞台裏を解説するドキュメンタリーの部分も充実していて
日本幻想文学のすばらしさが実感できた。

 しかし、見終わると更に症状は悪化して、吐き気がひどい。明日は会社を
休まなければならないかもしれない。


8月28日(土)  昼食にソーメンを食べ、昨日タワーレコードで買った3枚のCDを聞き直 す。宮城道雄の琴の演奏を集めたものと、マイルス・デーヴィスの「ポーギ ーとベス」、アニメ「借りぐらしのアリエッティ」の主題歌を歌ったことで も知られるケルトハープ奏者&シンガーのセシル・コルベルのソングブック。 宮城道雄の革新性はやっぱりすごい。西洋音楽を勉強しまくったのだなあ。 その勉強の成果を、あくまで邦楽の伝統にのっとって堂々と発展させている ところが本当にすごい。ぼくは昔から「瀬音」という曲が好きだったが、こ の曲のかっちりした構成感はそれまでの邦楽にはなかったものだろう。しか し、西洋音楽には「瀬音」のように、音色やリズムを自在に扱っている曲は 数少ない。「六段」のような古典も楽しめた。琴曲を生で聞きたくなってき た。「ポーギーとベス」は有名なアルバムだが、通して聞いたのは実は今回 が初めてで、ギル・エヴァンスの繊細なオーケストレーションとマイルスの 歌心にしびれた。セシル・コルベルのアルバムは非常にリリカルで、郷愁を そそられるところがあった。ケルト音楽には底知れない魅力がある。ケイト・ ブッシュあたりも実は結構影響を受けていたのではないだろうか。セシル・ コルベルをはじめとする若手のミュージシャンが次々に出てくるところを見 ると、ケルト風味のポップスは世界的な流行なのかもしれない。  夕方から溝口でジャムセッション。
8月22日(日)  お昼から新橋ヤマハでトランペット教室。「ドナ・リー」をAとAbのキ ーで、二人ひと組になって、ベースラインとソロを交互で担当するという練 習。やや慣れてそれなりに様になってきた感じ。「ドナ・リー」はよくでき ている曲なので、これを素材にするといろいろな訓練ができそうだ。終わっ て帰宅。会社の仕事をして夕方、千駄木の雑貨店イリアスへ。天野行雄(日 本物怪観光)さんの第8回 お化け物産展を見る。ユーモアたっぷりのお化 けグッズがところ狭しと置いてある。天野さんの作品は、丁寧な造りとひょ うきんさが良い。ポストカードを買い、天野さんに挨拶。ちょっと時間がで きたので、喫茶店乱歩でひと休み。ノスタルジックな雰囲気で、大正・昭和 初期の雰囲気を醸しだした独特のインテリアが面白い。注文したアイスココ アはやや甘すぎながらおいしかった。注文時に「猫が大丈夫ですか?」と店 の人に聞かれたが、店内を太った猫が歩き回っているのだった。猫好きなぼ くはもちろんOK。一時間程本を読み、経堂のスタジオでサルサバンドの練 習。
8月21日(土)  ジャムセッション仲間と多摩川花火大会見物。  二子新地の商店街をぶらついて、台湾料理の屋台でつまみになりそうなも のを買い、コンビニで梅酒を買う。3時に駅で待ち合わせ。それから花火大 会場に向かったが、もう結構人がいて場所取りに励んでいた。世田谷区と川 崎市の花火が両方見られる場所を取ることができた。打ち上げまで3時間も あるので早々と宴会モードに。打ち上げが始まる頃にはすっかりできあがっ ている状態になった。酒を飲み、持ち寄った料理を食べながらひたすら花火 鑑賞。今年は川崎の花火のほうが良かったような気がする。途中、酔いが回 って寝ころびながら見てたので判定はちょっと怪しいですが(笑)。  終わって二次会に行こうとしたが、混雑して全然進まない。仲間とはぐれ たりして、9時半近くにようやく溝口の居酒屋で落ち合う。話が弾んで11 時頃まで飲む。  ジャムセッションをやっていると、とにかく音楽以外の楽しみも増えます ね。
8月15日(日)  パリ在住の写真家オノデラユキの個展「写真の迷宮(ラビリンス)へ 」を 見に東京都写真美術館へ。  この人には以前から注目していて作品も結構見ている。今回の個展は過去 の作品を中心とした回顧展だが、やはり圧倒的に90年代の「古着のポート レイト」シリーズがいい。古着をモチーフにした幽霊画のように見える。前 衛写真家のように言われているが、根は日本の伝統的な怪談文学にあるので はないか。映画の登場人物のような女性と怪物のシルエット写真「Annular E clipse(2007)やキッチュな品々を並べた静物写真「12 Speed」(2008)と いった近作も面白いが、ちょっと自己模倣気味かな、とも感じた。コンセプ トをはっきりさせて作り込んでいく「芸術写真」の枠に収まってしまってい て、そこがやや窮屈に感じられる。作者がしつらえたコンセプトが映ってい る事物に勝ちすぎてしまって、「古着」の時ののような切実さが後退してい るのではないか。意地悪な言い方をすると、批評を書きやすい作品を作らさ れている、という印象もある。もちろん、すばらしい完成度だし、見ごたえ は十分なので、足を運ぶ価値はある。  見終わって、散歩気分になったので、恵比寿からぶらぶら歩く。暑いけれ ど、久しぶりに街をブラついて楽しかった。いなくなった猫の捜索願いのポ スターを見つけ、心が痛む。かわいいスコティッシュフォールドだった。中 目黒の喫茶店で休憩。アイスコーヒーを飲みながら読書。それから自宅まで また歩く。  菅政権の日韓併合100年の談話、なかなかいいではないですか。歴史問 題でこじれることの多い隣の民主主義国家に配慮することは、アジア全体の 民主主義を育てることにもつながる。要所要所で保守派の意向も慮った慎重 な表現を使っており、そのバランス感覚も悪くない。東南アジア諸国向けに も談話を発表して欲しいものだ。菅政権はちょっと冴えないなという印象を 持っていたのだが、未来志向で現実路線、期待が持てると思った。
8月14日(土)  だいぶ長いことかかっていた詩「ノラ猫にまつわる大変な話」を完成させ る。これで「ノラ猫」シリーズはひと区切りをつけるつもりだ。  夜、「万季」でジャムセッション。客はギターの人とぼくの2人だけだっ たが、3時間程も好き放題に演奏しまくり、満足。唇がちょっと腫れてしま った程だ。「コンファメーション」をやったが、この曲をしばらく吹いてい なかったせいで、テーマ演奏でミスを連発。反省、反省。このギターの人も うまかったし、ホストではドラムの人が達者だったのでソロでいろいろな仕 掛けを試みることができた。
8月12日(木)  北爪満喜さんの新詩集『飛手の空、透ける街』(思潮社)を読む。ふとし たことから広がる喜怒哀楽の感情がきっかけになって、幻想的な連想が生ま れ、虹のように美しいイメージが次々と紡がれていく。言葉による詩という より、映像詩のような感触がある詩集だと思った。装丁も凝っていて、詩と 詩の間に、写真を基にしたカットが入り、すばらしい効果をあげている。感 情が視覚美に昇華されていく様子が、言葉の上でも本の造りの上でもうまく 表現されているので、詩の読者だけではなく美術好きな人の心をも捉えるこ とだろう。
8月11日(水)  昼まで寝てちょっと仕事。夕方からホセ・ルイス・ゲリン監督の映画『シ ルビアのいる街で』を見にイメージフォーラムへ。  舞台はストラスブール。カフェで昔愛した女性(シルビア)に似た美女を 見つけた青年が、彼女をストーカーのように執拗に追いかけ、結局人違いだ ったとわかる話。と書けば身も蓋もない話のように思えるが、この作品の面 白いところは音の扱い方。BGMを一切使わず、街で聞こえる音、話声や靴 音やクラクションなどを騒音をじっくり「聞かせる」こと。例えばコツコツ という、石の舗道の上を歩く靴の音が異様な自己主張をしたりするのだ。そ んなことで人や物との距離感が掴めてしまうことに新鮮なショックを覚える。 街を行く様々な人種の男性や女性、そこで交わされる異国語の会話。世界の 多様性を官能的に味わわせてくれる映画だった。  夜、ピアニストの千葉香織さんと自由が丘で飲む。最初沖縄料理店に入ろ うとしたが満員だったので、そのビルの上の居酒屋へ。割と落ち着けていい 店だった。千葉さんから飼っていた猫のタマちゃんが18歳(もうすぐ19 歳)で死んだことを告げられる。ペットの死はショックだろうが、かわいが られて生を全うしたタマちゃんは幸せだったのではないでしょうか。生を全 うしたタマちゃんに拍手。
8月10日(火)  夏休み中なのにひたすら自宅で仕事。午後にみずほ銀行に行き、資産運用 についての話を聞く。  夜、千駄木のライブハウス「ジャンゴ」のセッションへ。トランペットが 一人、テナーサックスが一人、ギターが一人、ボーカルが一人で、人数は少 なかったがその分演奏の回数はたくさん回ってきて楽しくやれた。トランペ ットの松原さんは以前万季でご一緒させていただいたことがある。少ない音 数でじっくり歌い込むスタイルで安定感があった。  帰って深夜まで仕事。
8月9日(月)  猫たちの様子を見に実家へ。ファミもレドも元気そうで安心。レドはちょ っと臆病な性格なのだが、猫じゃらしを振りまわすと鋭敏に反応するのがお かしい。カメラが恐いようでなかなか写真を撮らせてくれない。ファミは相 変わらず「高い高いごっこ」がお気に入りだった。どちらの猫もブラッシン グが大好きになっていて、どこの家猫もそうかもしれないが、ブラシを出す とちょっと興奮の面持ちになる。  両親と家のリフォームのことなど話しながらソーメンと焼き肉という変わ った組み合わせの夕食を取る。姉の年金の通知も確認する。  10時すぎに帰宅。帰りの電車の中で冬目景の漫画「ACONY」を読む。 事故で死んだはずの女の子が実体をもって生き続けていて、父親と一緒に幽 霊屋敷のようなアパートに住んでいる。そこに死んだ時と同じくらいの年の 男の子が入居してくる、という設定。恐怖漫画ではなく、人と幽が家族のよ うにほんわか仲良く過ごす様が描かれている。霊的なものの媒介なしには、 家族の親密さというものは生まれてこないのではないか、と考えさせられた。  帰って土産にもらった梨と葡萄を食べる。
8月7日(土)  玉川学園のライブハウス「サマータイム」で内輪のライブ。溝口と町田と 三鷹でセッションをやっている仲間が集まっての発表会だ。ぼくのグループ は2番目に登場。ボーカルもの含めて3曲を演奏した。終わってビールを飲 みながら他の人の演奏を堪能。ギターでうまい人が何人もいた。発表会が終 わってセッションに突入。  怪談大賞と演奏に明け暮れる夏になりそうだ。
8月6日(金)  ビーケーワン怪談大賞選考会。この日のためにぼくはわざわざ夏休みを取 ったのだった。3時前にルノアールニュー銀座店に到着。福澤徹三さん、加 門七海さん、ポプラ社の斉藤さん、タカザワケンジさんも到着。東雅夫さん は打ち合わせが長引いて遅れるということなので、先に福澤さんと加門さん の新刊についてのインタビューを行う。  約1時間遅れで選考会が始まったが、例年以上に難航。事前にリストアッ プした作品を一作ずつ丁寧に論評しながら、残りの2時間を使い切る形でよ うやく作業が終了。いやあ、激戦でした。選考委員の方々、本当にありがと うございました。  終わると、メディアファクトリーが「幽」のイベントで放映するホラー文 士映画(?)の撮影をするために隣の部屋で待機していた。ぼくも部屋で端 で見学させてもらったが、京極夏彦さんがカメラワークや演技に細かな注文 をつけながら演出している様子が面白かった。小説を書く時もこんな風に細 部を作り込んでいるのだろうなあ、と思った。平山夢明さんの陽気な悪党ぶ りも良かったが、福澤徹三さんの仕草や表情がハマりすぎていてびっくり。 俳優としてもイケますよ。  その後打ち上げ。福澤徹三さんが、闇の部分を忌避する傾向にある世間を 厳しく批判されていたのが印象的。加門七海さんとは猫話で盛り上がった。 加門さんが集英社のサイトで連載されている猫エッセイはとても面白いので 猫好きな方は是非覗いてみて下さい。  ともあれ、今年も無事に済んで良かった。後は選考会記事アップもがんば ろう。
8月4日(水)  退社後、サントリーホールへ急ぎ、ファビオ・ルイジ指揮のPMFオーケ ストラの演奏を聞く。このオケは世界各国の若い演奏家を集めた臨時編成の オケで、いつも若々しい演奏を聞かせてくれる。  前半はリーズ・ドゥ・ラ・サールを迎えてのショパンの協奏曲第2番。協 奏曲というよりは、オーケストラ伴奏つきのピアノ独奏曲の趣きがあるが、 メロディーは非常に美しい。ラ・サールのピアノは端正かつ丁寧なもので、 清潔感があった。テクニックもあって、華麗なパッセージははっと息を飲む 程艶やかに弾く。  後半はブルックナーの7番で、ぼくがブルックナーの中で一番好きな曲の 一つだ。ルイジの指揮は、派手に盛り上げることをしない、自然な流れを重 視したもの。加熱しがちな若手の奏者が集まるオケには適したやり方だろう。 臨時編成なのでぴたっと合うというわけにはいかず、特に金管の合奏が濁る ことがあったが、ブルックナーの神秘的な面と素朴な面のどちらの面もよく 表現されていて、満足した。音楽の細かな流れを隅々まで聞かせることに集 中したルイジという指揮者は、やはり世評が高いだけある力量の持ち主だ。  終わって集英社の田沢さんや著述家の守屋さんたちと中華料理店で食事。
8月1日(日)  新宿ゴールデン街の「夏祭り」企画の野外ライブ。4時頃会場に着いたが 蒸し暑いの何の。立っているだけで汗がだらだら出てくる。まあ、こういう のも夏らしくていいかもしれない。出店がいっぱいで、歩くだけで結構楽し い。リハをやっている最中に、近くのストリップ劇場の人からうるさい、と クレームがくるが運営者のとりなしで事なきを得る。5時すぎに本番。40 分程演奏した。狭い街角での演奏だったが、ずっと立って聞いてくれる人も 多かった。演奏は途中ちょっと不安定になる箇所もあったが、立ち直って後 はスムーズだった。終わってビールを飲み、その後、メンバーの天神さんが 関係するバー「フラッパー」の2階でラム酒を飲む。エアコンがなく、扇風 機だけだった。昔の夏を思い出す。1時間ちょっと飲んでから、怪談大賞の 準備のために一足先に帰る。  昨日は溝口でジャムセッションに参加したし、音楽漬けはしばらく続きそ うだ。