2011年12月

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12月31日(土)
 今年も今日でおしまい。ちょっと雑用と書きものをしてから実家に帰ります。東
日本大震災や独裁者たちの死去や失脚、欧州経済危機などいろいろなことがありす
ぎた一年だった。個人的にもいろいろあって、ここには書かなかったが落ち込む出
来事もあった。ただ、詩集『真空行動』を出せたことは本当に良かったと思ってい
る。
 先日、詩人の坂輪綾子さんからお手紙をいただいた。そこに綴られた短い感想が、
ぼくの詩集への感想という域を越えて、批評としてすぐれていると感じられたので、
坂輪さんの了解を得て、ここに一部を引用してみる。

 「外と内の対比が作品のあちこちにあり、それがまるで猫にとっての部屋の中と
外とのようで、作者と猫との関係、作者と外、猫と内という世界観が、よりひきた
つようでした。“他人となるべく接しないで”と言いつつ、他人に向ける不思議な
暖かいまなざしがあり、他人や外との距離のとり方、観察する視線が相反しながら
も、作品の核になっているように思いました」。

 ぼくが目指していて、うまくまとめられなかったことを的確に言い表している評
言だと思う。『真空行動』の猫パートの詩では、相手や場所との関係の推移を繊細
に掬い取ることを心掛けたが、「内と外」という対比を、「世界観」といった抽象
的なレベルに昇華することに関して、作者として必ずしも自覚的ではなかった。こ
のことを、最小限の言葉で言い表した坂輪さんはすごいなと思うと同時に、この対
比の構造をもっともっと発展させていきたい意欲が沸いてくる。坂輪さん、ありが
とうございました。坂輪さんの新作も読んでみたいです。

 それでは、あと数時間したら帰ります。
 皆様、良いお年を。

12月30日(金)  午前中、みずほ銀行に行って資産運用について担当者から話を聞く。ぼくの持っ ているものでは、オーストラリア債券が比較的好調の他はほぼ全滅。もうちょっと 待ってから商品を切り替えることを薦められる。インドネシア債券の投信がいいよ ということだった。これから検討してみる。  サルサバンドの忘年会。年末ですねえ。  下北沢のラテン酒場ボデギータに19時到着。この店は元々恵比寿にあり、わが サルサバンド、ロス・ボラーチョスが活動を始めた時に最初にライブをやらせてく れた店だった。オルケスタ編成のバンドを入れるには狭くて、ホーンセクションは 厨房の中で演奏したものだ。モヒートの味を覚えたのもこの店。その後六本木に移 り、更に、キューバンカフェと名前を変えて築地に出店したが、昨年店を閉めてし まった。寂しいなあと思っていたら、下北沢に昔のボデギータの名前で開店すると いうので嬉しく思ったものだ。店は、下北沢の駅から歩いて10分弱ほどのところ にあって、わかりやすい。扉を開けると、昔よりは随分と小ぶりなバーになってい たが、昔と同じ匂いがして懐かしかった。15人程の人が集まった。ママさんやシ ローさんに挨拶し、モヒートを頼む。美味。他にヘジョワーダ(キューバ風豆ごは ん)や豚をローストしたものなどがあった。そして70−80年代初期くらいのサ ルサのビデオを見た。日本で言えば歌謡番組で、おしゃべりもあれば滑稽な仕草の ダンスもある。が、演奏の質は超絶的だ。全員、無駄な動き一つなく、スマートに かつホットに演奏する。日本の歌謡番組との違いは、日本では歌手だけにスポット ライトが当たるが、彼らの場合は、演奏者全員に光が当たるというところ。聞きど ころがあちこちにあり、バンドの個性が際立つ。ラテン人の音楽を楽しむ姿勢はす ごい。ここには越えられない壁があると思った。ボラーチョスのビデオも見て、他 愛ないお喋りをして、いい気分になって11時過ぎに帰宅。
12月24日(土)  クリスマスイズですが、特に一緒に過ごす相手もいないので、例年通り年賀状書 きと不要物整理。夕方頃、少し落ち着いてきて、ワインを飲みながら詩集を読む。  最近読んだ詩集の短評。  井谷泰彦『はじめての<ユタ>買い』(七月堂)は、沖縄の民俗を細かく紹介し ている詩が多くある。故郷の京都、旅行先のモロッコなど、他にも土地に関する記 述が多い。詩的というより報告書といった方がいいくらい淡々と情報を並べていく 書き方の箇所があるが、無論これは狙ったもので、その淡々とした口調の間に、市 民生活から逃れ出て自由に息をつきたいという強い意志が迸る。そしてエモーショ ナルな表現が必要な時は十分濃度の高い書き方になる。父を想う詩の、抑えながら 突然爆発するような構成にも惹かれた。多様な書法を混ぜているのは、自己を家族・ 土地・民族・歴史といった複数の観点から捉え直そうと試みたからではないかと思 う。  大高久志『空を映す』(書肆山田)。一行の長さが短い詩がページの真ん中に印 刷されている。余白をよく味わうことを指示していると思われる。自分の過去や現 在、他者の物語が、完了形で淡々と語られていく。語る対象を「遠景」のフレーム に押し込み、生々しさを排して表現していく。結果、まるで影絵のような効果が生 まれる。また、よくできた俳句のような抒情性も生まれる。内容的には結構劇的な テーマも扱っているのだが、「遠景」に収めることで、特有の静的な美が醸される。  『神尾和寿詩集』(現代詩人文庫)。ブラックユーモアに満ちた、余り現代詩で は描かれないイメージが、軽妙なタッチで展開される。ライトヴァースという詩の 方法を独自に発展させた作品群。黒い箴言集と言ってもいいかもしれない。とにか くテンポが良く、どんどん読めてしまう。物語的な展開を好む人には不向きかもし れないが、しかし、こういう詩の楽しみを放棄してしまうのは余りにもったいない ものだ。律儀に無責任な言葉の使い方は勉強になるところが多かった。  福島敦子『永遠さん』(草原詩社)+幾つかの詩編。年を取り、認知症になって しまった父親をうたった詩群が圧巻。愛情と愚痴がいっしょくたになって、何とも 言えない味わいを残す。介護に疲れ果てながら、父親の生きる姿を讃えている作者 の姿がくっきりと浮かび上がる。話し言葉の口調も効いている。こういうペーソス のある詩は大好きで、あと何篇でも読んでみたい気持ちになった。『永遠さん』の 方は、心のうちを、豊かなイメージを通して表現しているが、話者の立ち位置が微 妙に曖昧にされているので、真意がちょっとつかみづらい感じがした。とてもよく 練られた表現なのだが、作者の姿、生活空間が見えた方が、福島さんの詩の場合、 比喩に凝るよりも共感を得られやすいのではないか、と思った。
12月23日(金)  夜、J−FLOWでジャムセション。先週行って好感触だったので今日も来てみ ることに。テナーサックスの宮田よしさんがリーダーのセッションで、ボーカル可 の日だったこともあり、ボーカリストがたくさんきていた。それでも、宮田さんの 巧みな進行のおかげもあって、順番が結構回ってきた。ボーカルの方は皆上手な方 ばかり。歌伴は、普段あまりやらない曲が思いがけないキーでできるので勉強にな る。既にいろいろな場所で活躍されているヴァイオリニストの柴貴子さんと知り合 うことができたのも良かった。音を長く伸ばす弾き方で、いかにコードの変化を伝 えるかという点について勉強になった。
12月18日(日)  青山のマヤで吉田尚令展を見る。吉田尚令は、宮部みゆき作の怪談えほん『悪い 本』の挿絵を担当した人だ。この作品は、少女が、本に例えられた自分自身の「悪 い心」におののくという内容だが、本をぬいぐるみの熊にイメージ化したのは吉田 尚令のアイディアである。会場には、迫力ある絵が並び、暗い物語の世界にたっぷ り浸ることができた。特に、正面の巨大な熊のぬいぐるみの絵は圧巻だった。『黒 い本』がらみの絵が多かったが、関係のない作品もたくさんあって、絵の中の言わ ば詩心のようなものを堪能することができた。絵本作家の個展は、独立した絵画作 品だけを描いている画家の絵よりも面白く思える。画廊の方ともお話ししたが、会 場に置いた絵本はとても良く売れているとのことだった。このシリーズの絵本の画 家の方は皆個展をやって欲しいな、と思ってしまった。
12月17日(土)  午後、錦糸町のJ−FLOWでジャムセション。初めて来る店だ。錦糸町からちょっ と歩くが、わかりやすい位置にあった(とは言え、最初通り過ぎてしまったのだが)。  初心者から中級者くらいのレベルだったが、和気藹藹とした雰囲気で、指名も公 平だった。ぼくは、いばっている人がいるセッションは大嫌いなので、こういう店 は好きだ。置いてあるピアノも良かったし、また来ようと思う。ベースの年配の奏 者が力強いプレイで印象に残った。
12月16日(金)  恒例の幻妖ブックブログ今年を総括する座談会&忘年会。今回は作家の平金魚さ ん、ライターの門賀美央子さんをゲストとしてお招きした。  今年は東日本大震災があって、ホラーや怪談といった分野に対して風当たりが強 くなってしまうのではないかという懸念が、実はあった。しかし、蓋を開けてみる と、怪談文芸は花盛りだった。これは、怪談は鎮魂が源である、として、地方での 怪談文芸の振興を行った「みちのく怪談/ふるさと怪談」のムーヴメントの力によ るところが大きい。その立役者が、ふるさと怪談の事務局長である門賀さんだ。お 話をうかがって、その土地その土地の怪談愛好者たちがいかにこのムーヴメントを 歓迎したかがわかり、驚かされた。平金魚さんからも怪談が一般の人に「ものを書 く気を起こさせる」意義について貴重なご指摘をいただいた。今年は、小説では、 宮部みゆき、恩田陸、恒川光太郎らの秀作が刊行されたし、「怪談えほん」の創刊 もあった。ホラー・怪談・幻想文学にとって、2012年は意外にも当たり年にな ったと言うことができるだろう。  座談会の後、近所の居酒屋「あだし野」で忘年会。楽しい夜となった。皆様、本 当にありがとうございました。来年もよろしくお願い致します。
12月11日(日)  お昼に新橋ヤマハのトランペット教室。Just one of those thingsを速いテンポ で、伴奏なしでトランペット2本のみで演奏する練習。ひえー、難しいですねえ。 トランペットは不安定な楽器なのでどうしてもリズムが曲がってしまう部分ができ る。即時に修正できれば良いのだが、それが結構困難なのだ。今日のテーマは「全 身脱力」で吹くというもの。肩から力をできるだけ抜いて余裕を作り、周りの音の 情報収集力を高める。速いテンポでコードも複雑となると、ハードルが高くなるの だが、そこは、「歌」を大事にすることで克服せよ、ということ。うーん、まあ練 習しなないですね。うん、練習、練習。  レッスン後は江古田のポエムカフェ「中庭ノ空」に足を運ぶ。紅茶とコッペパン のトーストを注文。どちらもおいしい。今日は男性客ばかりが来ていて繁盛してい た。ポエムカフェなのに男性客に人気があるというのが面白い。店主の五十嵐さん の魅力からか? 詩集も読み放題だし、とても気持ちのいいなので、皆さん、是非 一度足をお運び下さい。今日は、小野ちとせ詩集『ここに小さな海が生きている』 (土曜美術社)を読んだ。水の変容を抒情的に捉えた作品集で、そのリリシズムに 打たれた。  帰ってちょっと仕事をし、夜、サルサバンドの練習へ。
12月7日(水)  退社後、「ふるさと怪談トークライブ in 東京」を見るためポプラ社大ホールへ。 東雅夫さんやライターの門賀さんたちが、その土地その土地の怪談を振興するため に始めたもの。直接的には、東日本大震災がきっかけで、東北の出版社・荒蝦夷を 支援することも目的に含まれている。  会場は超満員で、立ち見が出るほどだった。何、この怪談人気は!  催しは東さんの基調講演に始まり、映像作家で怪談作家の黒木あるじによるドキ ュメンタリー映画の上映、赤坂憲夫、京極夏彦、黒木あるじ、東雅夫による座談会、 京極夏彦による遠野物語朗読パフォーマンス(舞踏もあり)、女性作家たちによる 怪談語りなど、盛りだくさんだった。黒木さんの映画は、東北の甚大な被害を正確 に伝えていて、思わず息を飲んだ。京極氏は、怪談は文化とともにあり、例えば幽 霊の文化がない国では幽霊は出ない、怪談は作られていうもの、という見解を披露 し、なるほどと思った。朗読パフォーマンスでは、迫力ある舞踏も加わり、場が盛 り上がったが、後に聞いたところによるとリハの時間が取れず、ほとんどぶっつけ 本番でやったとのことだった。女性作家陣による怪談語りは、怪異とおしゃべりの 切っても切れない関係を再認識させてくれる楽しいものだった。  配られたレジメには、ぼくも加わっているビーケーワン怪談大賞のことも載って いて感激。あのコンテストは本当にやって良かった。あの時播いた種がここまで育 つとは感無量、などと勝手に思った。  震災の爪跡は大きいし、世の中は不況だが、怪談はそうした苦しい状況を相対化 させてくれる力がある。怪談を楽しむ余裕が、人を救ってくれるのではないか。
12月3日(土)  夕方から溝口のジャムセッション。昨夜聞いた原カルテットのことを思い出しな がら小味で勝負する演奏を心掛けたが、うまくいかず。トランペットでしっとりし た吹奏を行うのは本当に難しいですね。  今日は女性のプレイヤーがたくさんきていて、華やかな雰囲気を醸し出していま した。ここ最近、女性でジャズをやる人が増えてきたことを痛感する。  二次会にも参加して11時頃帰宅。
12月2日(金)  寒くなりましたね。もう師走。  退社後、原朋直カルテットの演奏を聞きにお茶の水のNARUへ。ちょっと遅れ て着き、3曲目くらいから聞いた。メンバーは宮川純(P)、上村信(B)、デニ ス・フレーゼ(Ds)。ベースの上村信はベテランだが、ピアノ、ドラムスは若手 が固める。と言っても若手にありがちな力任せの演奏ではなく、むしろ控えと言っ ていい程の、アンサンブルを大事にした演奏だった。  曲はオリジナルとスタンダードが半々くらい、オリジナル曲はリズム構造が面白 いものばかりだった。原さんの演奏は、柔らかめの音でじっくり聞かせるタイプの もので、はっと息を飲むような美しい瞬間が幾つもあった。トランペット音楽が「 息の芸術」であることを改めて痛感させてくれた。全体としては、クラシックの室 内音楽を聞くような親密さがあって、幾ら聞いても疲れない。無論、ダイナミック に盛り上がるところは十分力強く、繊細さが鍛え抜かれたパワーに支えられたもの であることは一目瞭然だ。   原さんの洗足の生徒さん(女性のトランペッター)が隣の席にいて、休憩の間ト ランペット談義をしたりする。  ゲストを呼んでのセッションを含め、11時頃終演。