2011年5月

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5月31日(火)
 明日よりビーケーワン怪談大賞。準備をすませて退社後、東雅夫さんの推理
作家協会賞受賞をお祝いする会へ。場所は銀座のBelgian Beer Cafe。到着す
ると既に人がいっぱいで会場が溢れるほど。東さんの人望の厚さがうかがえる。
京極夏彦さんをはじめ、大物作家の方々も大勢いらっしゃる。受賞作品は『遠
野物語と怪談の時代』(角川学芸出版)で、柳田國男が活躍した日本近代の黎
明期におけるホラー・怪談の存在の大きさについて詳述する内容。文学史の読
み変えを促すような画期的な作品で、こういうすばらしい作品が知名度のある
賞を取ることは本当に喜ばしい。ビーケーワン怪談大賞関連の人もたくさん駆
けつけていて、和気藹藹とした雰囲気の中、楽しくお喋り。日本ホラー小説大
賞短編賞を受賞された朱雀門出さんと初めてお会いする。穏やかな中に情熱を
秘めた感じの方だった。10時半頃帰宅。そして0時に怪談大賞スタート。


5月29日(日)  午前中、新詩集のゲラが七月堂より届く。自分が書いたものではあるが、 分量が多い。普通の詩集の1.5倍から2倍近くある。読み返していると、書い た当時の心境が蘇ってきて複雑な気持ちになる。  午後、たまった本を古本屋に売りに行き、部屋をちょっと片づける。  またゲラをチェックしているうちに、夕方を過ぎ、慌てて用賀のライブハ ウス、キンのツボへ。今日も知人のライブがある。着いたらお客様がいっぱ いだった。最初のバンドはトランペット&アルトサックスのクインテット、 二番目のバンドはアルトサックス入りのクワルテットだった。どちらのバン ドもフロントは若い女性がつとめていたが、安定した歌いぶりで楽しめた。 選曲やアレンジが凝っていたのも良かった。3ステージめはジャムセッショ ンで、ぼくも何曲か参加した。ピアノとサックスにうまい人がいた。今週も 音楽三昧の週末だったが、気の合う仲間と音楽をやるのは本当にいいものだ。
5月28日(土)  サルサバンド、ロス・ボラーチョスで「2011 JAZZ in FUCHU」に出演。 11時過ぎに会場のルミエール府中に到着。ホールが立派で驚く。たくさん のバンドが出演するのに、控室は一つのバンドで一室という贅沢さ。府中市 はお金持ちなんですね。自由時間に国立音大他3つのビッグバンドを聞いた が、審査を通っての参加にふさわしく、どのバンドもレベルが高かった。特 にAfter5 Lab Bandというアマチュアビッグバンドはノリが安定していて気持 ち良かった。無料とはいえ、お客さんが多いのにもびっくり。13時に出番。 ジャズバンドばかりの中で唯一のラテンバンドだった。いつものように踊っ てくれる人はさすがに少なかったが、皆最後まで熱心に聞いてくれた。お年 寄りのお客さんの反応が良くて、帰り際に次のライブの予定を聞いてくれた 人もいた。古くからの知り合いにも会えて嬉しかった。  ライブ終了後、近くの中華料理店で打ち上げ。昼間からビールを飲み、焼 きそばからカニ玉までさんざん飲み食いした。こんなに打ち上げらしい打ち 上げをしたのは久しぶりだ。  その後、相模原のライブハウスStray Blue Jazz Clubに直行。友人のライ ブを聞く。ピアノとギターのヂュオだったが、息があっていて楽しめた。こ の店はカクテルがおいしいとの評判だが、特にブラディマリーが独特のコク があっておいしかった。デュオの後は、ヴォーカル、ピアノ、ドラムのバン ドが登場。昭和のポップスなどを演奏、うまいという程ではなかったが、ユ ーモアのセンスがあって楽しめた。間に謡の飛び入りがあり、バラエティに 富んだ音楽が聞けた。
5月21日(土)  中学3年のクラスに同窓会。担任だった先生の体調が思わしくないと聞き、 先生を励ますために開いたものだ。渋沢駅で待ち合わせ、送迎バスで和風レ ストランへ。20人程が出席した。先生は痩せてはいたが、元気そうに見え た。挨拶では、昔の熱血先生のままの口調で、教育について語っていた。余 りに「相変わらず」なのでびっくり。いやあ、本当にいい先生だったし、今 もそうだ。  元クラスメイトたちも実に「相変わらず」で、誰が誰だか一目でわかって しまう。喋り方も性格も昔のままだ。会ってすぐ、当時のあだ名で呼びあっ た。ただ、もちろんみんなもういい社会人になっていて、顔に自信が漲って いた。そこが、おどおどしていた中学の頃とは違うところだ。当時先生に手 を焼かせていたお騒がせ?な連中もすっかり温厚になっている。かと思うと、 昔はおとなしめだった人がおしゃべりになっていたりするから面白いものだ。 息子さんの顔がジャニーズみたいにきれいだと自慢する人もいたりした(笑)。 ぼくは数少ない独身者なのでそのことで冷やかされたり。とっても楽しかっ たです。  中学の同窓会というのはいいですね。高校になると、受験を経て同じレベ ルで競争しあったりするから、友達であると同時にライバル同士の関係にな る。それが中学だと、クラスメイトがよりバラエティに富むので、より開け た感じがするのだ。それでも久しぶりにあってこんなにうちとけてしまうの は、やはり先生が良かったからだろう。  佐伯先生、どうかお元気で。またクラス会やりますから。
5月15日(日)  ユーロスペースに映画「まほろ駅前多田便利軒」(大森立嗣監督)を見に 行く。便利屋を営む青年と彼の家に転がり込んできた中学の元同級生の男の 物語。ふてくされたような、ぶすっとした顔をしてはいるが、二人とも異常 なまでの人情家で世話焼き。ちわわの飼い主を探したり、ヤクの運搬を手伝 わされる少年を救うために危ない橋を渡ったり、などなど。売春をやってい るおねえさんをストーカーから守るために死にかけたりもする。しかし、最 後は何となく丸く収まる。冴えない男二人を主人公にした甘いメルヘンだが、 主演の瑛太と松田龍平がうまく役柄を掴んでいて、冴えない中のかわいらし さをよく出している。タバコを吸うシーンがたくさん出てくるのも面白かっ た。本心を隠して煙に巻くことの比喩として使われているのだろう。本当の 悪人は一人も出てこない作品なので、ウソ臭い感じがしなくもないのだが、 その分、人情が細やかに描かれていて楽しめた。  帰りにトマトベースのスープのラーメンを食べる。なかなかおいしかった。
5月14日(土)  午前中歯医者へ。セメントを除去し、銀を詰めてもらう。ほとんど痛みも なく、快適に治療が進んだが、虫歯が結構進んでいたために、やはり奥歯が ちょっとしみる。これはもう仕方ない。何とかつきあっていくしかないです ね。  夜は溝口のジャムセッション。初顔合わせの人が何人かきていた。楽しく 演奏して最後はヴォーカル曲で締め。二次会にも参加する。
5月10日(火)  退社後、「幽」怪談文学賞の授賞式へ。場所は昨年と同じウェスティンホ テル。ちょっと遅刻して、東雅夫さんの挨拶が始まるところだった。今年も ビーケーワン怪談大賞の出身者が受賞していて嬉しいことこの上ない。短編 部門の大賞を受賞した平金魚さんは、挨拶で、お父様が太宰治の遺体の第一 発見者だったという衝撃の事実を告白。会場が騒然とした。乾杯の後、知り 合いを回って挨拶。荒蝦夷の土方さん、黒木あるじさん、勝山海百合さん、 加門七海さん、福澤徹三さんらとお話できて良かった。二次会では書店員の 方々と顔合わせ。丸善の高頭さんがウッディ・アレンの礼賛をしていたのが 印象的だった。11時近くにお開き。
5月8日(日)  クロコダイルでサルサのライブ。リハーサルをし、てんやで夕食。7時半 から本番。おおむねうまくいったが、リハで躓いてしまった曲が、その箇所 でないところでアンサンブルが乱れてしまい、ちょっと慌てた。何とか持ち 直して演奏続行。聞きにきてくれた大学の後輩の由井さん夫婦と、ジャムセ ッション仲間の吉澤さん親子に挨拶。由井さんの奥さんはマッサージを仕事 にしていて、和楽器奏者にお得意様が多いと言う話だった。吉澤さんの息子 さんは高校でトランペットをやっているそうだった。  終わってビールを飲み、11時頃帰宅。何とマウスピースを楽屋に忘れて いたことに気がつく。しばらく、慣れないマウスピースで演奏しなくてはな らないかな。連休も今日で終わり。
5月7日(土)  11時に七月堂へ。知念さんに新しい詩集のテキストが入ったCD−Rを 渡し、詩集の構想を話す。知念さんからたちどころに装丁のアイディアが返 ってきた。近いうちに組見本を作ってくれるという。スピーディーに運んで、 ちょっとびっくり。知念さんからブルガリアの詩人ニコラ・ギゴフの詩集『 赦しの日』をいただく。硬い感じの言葉遣いだが、メッセージがはっきりし ていて読み応えがある。朗読CDもついている。野村尚志さんの詩集『韓国 強制併合百年 朝日鮮豚』のことも話題に出る。タイトルだけ見ると政治的な 内容の作品集に見えるが、中身はそうでもない。野村さんの実生活に即して いて、町の様子なども精確に描かれている。生活の空気が感じられる詩集だ。 その他、ノラ猫のことや放射線のことなど雑談をしているうちに12時にな り、七月堂を出る。  新宿へ行ってバッグを買い、その後パークタワーホールへ。イメージフォ ーラムフェスティバル2011のAプログラム「ジャパン・アニメーション・ パノラマ」とHプログラム「リアル・エクスプローラー」を見る。Aプロの 作品はこんな感じ。 水江未来の「TATAMP」「MODERN」は、毛虫とか立方体 とかをモチーフにしたユーモアのある抽象アニメーション。pecoraped「SPO NCHOI Pispochoi」は赤いホクロが特徴の伝染病が蔓延して人類が明るく破 滅するという話。一瀬晧コ「TWO TEA TWO」はややシックな絵柄で女性の生 活が描かれる。話がちょっとわかりにくかった。古川タク「はなのはなし」 は、鼻に対するコンプレックスを中心に、平安期とヨーロッパの人間が集う 不思議な光景を描く。芥川とゴーゴリの「鼻」がモチーフとして使われてい る。中西義久「many go round」はペーパークラフトをアニメーションにし たもの。紙の人物が歩き回る様が印象的。佐竹真紀「おもかげ」は鏡を持っ て撮影する自分を視界に収めながら田園風景を撮影する作品。子供の写真 や祖父の写真が混ざる。平野遼「ホリデイ」は、イモリのような生き物を 飲みこんでしまった女性歌手とつれあいの男性の奇想天外な物語。ノルシュ テインの残響が聞こえる。面白かったがこれもやや話がわかりにくかった。 水本博之「いぬごやのぼうけん」は犬と少年が洪水で海に流されて、怪物 に襲われたり大変な目に遭うが、無事に日常に回帰するという話。永岡大輔 「私の痕跡」は、男性一人、女性二人が喫茶店で話し込む光景を描くが、一 枚の紙に鉛筆でドローイングする過程を全てカメラに収めているのが面白い (一度描いた絵を消しゴムで消し、その上に新しい絵を描く。文字通りの痕 跡が紙に残されている)。全般に、視覚的には楽しめたが、シナリオはもう ちょっと練った方が良いのではないかとも感じてしまった。  Hプロはドキュメンタリー映画集で力作が並ぶ。大木裕之「ダママ」は、 異なる三か所の土地のイベント、ギャラリー、演劇の現場の光景を交互に 映し出しつつ、作者が目にしたものをもとに即興の文化論をつぶやきなが らほっつき歩く映像を間に混ぜる、というもの。超日常的な世界への裂け 目を探している感じがする。小林由美子「ラブ!ミー!テンダー!」は、ジャ ニオタ(それもジュニア)の作者の自分語り。末っ子の作者は婿取りと称 してウェディングドレスを来て年下の少年を追い回したりして、ダメな自 分の再確認を行う。田舎のまじめそうな両親の映像との対比も良い。中嶋 駿介「THE IKIZAMA」は、学校への道を案内する実況中継の映画。どうって ことのないものをニュースのように取り上げていく様が楽しい。途中出現し たカマキリが意外に大きなウェイトを占めていくのも実況ならでは。佐々木 優「17歳」は、成人した作者が同級生だった男性の前で、17歳だった頃 と同じようなメイクをしながらかつての日々について話し合うというもの。 作者は高校時代派手なメイクをし、感情の凹凸が激しかった子であったよう だ。かつての姿の自演の映像もあり、同性愛の衝動も描かれる。背中を観客 に見せ、掌を象ったドローイングが背に描かれるシーンで終わる。現状を打 破するために演劇的な行為を選ぶという点が似通っていたかもしれない。
5月5日(木)  昨日新しい詩集の校正と構成を行い、原稿がほぼ固まる。近いうちに出版 社に行き、刊行の手続きをしよう(もちろん自費出版だが)。  日中会社の仕事をし、夜、イメーイjフォーラムフェスティバルFプログ ラム「ストーリーズ」を見る。  田中廣太郎「invain」は川べりや野原に一足の靴を置き、その様子を淡々 と映し出すというもの。不気味な雰囲気が形作られるが、最後の方で子供た ちが無邪気に「何だそれ」みたいな感じで近づいてきてその雰囲気をぶち壊 すのが面白い。 五十嵐耕平「APARTNESS」は同棲しているカップルの別れを 描いた作品。私小説的な設定だがどちらか一方の感情に加担することはない。 酒井一樹「セックスと長野とイルカ」 は、イルカが体の中にいるんじゃない かと語る女性、長野の山奥でケシを栽培する父親のもとで暮らしていたこと を語る女性、彼氏との関係を語る女性の三つの語りを並べたもの。青柳清美 「蛇が泣く」はアニメーションで、蛇と相思相愛の仲になっていた娘が、蛇 に浮気されてしまって脱皮した皮だけ残るという話。女の情念を表現してい るようだ。畑純平「冬を混ぜて庭」は、美大生の女の子が友達と待ち合わせ、 落とした文庫本を探しに行くという話。物語の途中で何度もスタートに戻り、 話が演じられ直されるが、その都度元の話とは違う展開になっている。昔の 「前衛映画」のような構造だが、女の子同士の会話の中で日常性が生き生き と表現されていて、「前衛」っぽくなくなっている。個人的にはこれが一番 面白かった。  帰って仕事の続き。
5月3日(火)  夕方、銀座のヴァニラ画廊で催された「邪神宮〜邪―The Evil」展のイベ ントに足を運ぶ。学研から刊行された、小説家と美術家によるクトゥルー神 話トリビュート本『邪神宮』の刊行記念のイベントだ。会場はいっぱいで立 ち見となった。東雅夫さんの巧みな司会のもと、各アーティストたちがそれ ぞれのクトゥルーに対する想いを熱く述べていく。面白くて、1時間半ほど があっというまに過ぎてしまった。会場に展示された美術作品はどれも手が 込んでいて興味深い。ラブクラフトは、世界が人間が中心でないことを示そ うとアイディアを凝らした作家だと常々思っているが、日本の文化風土は逆 に、何でも擬人化しようとする傾向がある。その正反対なもののドッキング がとても新鮮だった。日本人の情の深さみたいなものが改めて印象づけられ た企画展だった。
5月2日(月)  仕事中、米国軍によるビン・ラディン殺害のニュースを知る。裁判にもか けないで、いきなり殺害ってありなのか。また、ラディンを殺したからと言 ってテロの危険が消えるのか。逆に、テロのきっかけになるのではないか。 世界的には、アメリカの実力行使の方が問題視されていくのではないか。浮 かれているアメリカの市民の映像を見て不安な気持ちになる。  夜、ピアニストの千葉さんとインドネシアカフェで食事。音楽のことや生 活のことなどいろいろ話す。ちょっと辛い味付けのものが多かったがおいし かった。
5月1日(日) 美術家の松宮純夫さんから招待状をいただいていた国立新美術館の国画展 を見に行く。2階の若い人たちの作品がアイディア豊富で面白かった。  夕方、ピットインの辛島文雄トリオ+日野皓正ライブに足を運ぶ。これは 大変な聞きものだった。辛島文雄トリオはどちらかと言えばいつもよりカッ チリした演奏をしていて、若いリズムセクションがいい仕事をしていた。特 にベースの楠井五月のテクニシャンぶりには驚かされた。日野皓正は、逆に、 フリー・ジャズをやっていた若い頃のような奔放な吹奏ぶりだった。ハイト ーンを駆使して、リズムセクションを挑発するような演奏に聴衆が熱狂。た だ、日野皓正は中低音域での柔らかでデリケートな弱奏もすばらしい。「ノ ルウェイの森」や「黒いオルフェ」ではそうした吹奏が聞かれたが、多くの 部分はダイナミズムをめいっぱい強調した吹き方で、そこまで張りきらなく てもいいんじゃないかなとも思った。いずれにせよ、ジャズの良さを思う存 分味わうことのできたすばらしいライブだった。