2012年1月

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1月29日(日)
 お昼に新橋ヤマハのトランペット教室。Limehouse Bluseをが課題曲。
コード進行は難しくないが、長く続く7thコード上で面白いメロディーを作るのは骨が
折れる。コードチェンジというとっかかりがなしに、メリハリのある表現をしなければ
ならない。次のレッスンでは高速度で伴奏なし、トランペット2本のみで演奏する予定
なので、しっかり練習しておこう。
 レッスンが終わって急いで小田急線の渋沢駅へ。中学の恩師の佐伯先生のお見舞いに
元クラスメイトたちと行く予定なのだ。駅に着いてタクシーに乗り、5、6分で着く。
着いたら、元クラスメイトの女性三人、沼田(大場)さん、松田(馬渡)さん、林(遠
藤)さんと既に談笑していた。お土産の紅茶を渡し、お話の輪に加わる。お痩せになっ
ていたが、昔と同じように、精力的に喋る姿に感動。このパワーはどこからくるのか。
昔のことや他のクラスメイトたちの様子や、学校の現状、生き方全般についてなど、と
にかく喋って笑った。やはり中学時代の仲間は面白い。高校より成員がバラエティに富
むからなのか。ケーキと、先生が作られているグレープフルーツをごちそうになった。
グレープフルーツは蜜柑のようなすっぱさだったがおいしかった。お土産にもいただい
た。
 佐伯先生の車で駅まで送っていただき、また同窓会をやりましょうということになっ
て、笑顔で別れた。今でも本当にいい熱血先生だ。
 帰りの電車の中で、酒屋をやっている沼田さんのところにワインを買いにいこうとか、
工芸家である林さんの展示会に行こうなどと盛り上がる。松田さんがハンサムな息子さ
んとデートをする(!)という話をするので、写真を見せてもらったが、余りにもかわ
いいのでびっくりする。芸能人になれるレベルだ。頭に布を巻いた写真が、まるでフェ
ルメールの絵みたいだった。
 帰宅して雑事を片づけ、しばらくネットを見たりしてからサルサバンドの練習のため
経堂のスタジオへ。今日は参加人数が極端に少なく、ベースの音だけを頼りに音を出し
た。こういうのも勉強になりますね。

1月22日(日)  午後、「難波田史男の15年」展を見にオペラシティ・アート・ギャラリーへ。この企 画展では難波田史男の作品をテーマ別に分けて陳列しているが、心の奥底でのみ起こる 夢のように脆い手触りの出来事を描く彼の絵は、テーマで何らかの特色を出すようなタ イプのものではないという気がした。素直に年代別で並べてくれた方が、作風の変化が わかって良かったのではないか。それはともかく、展示された作品自体は質量ともに充 実していた。あの、滲むような、震えるような線と色が訴えかけてくる力はすごい。彼 にとって、目にするものは全て「顔」なのだろう。何もないところに「顔」を見出す名 人なのだ。それは、極度の孤独癖からきているもののように思える。  夕方、原宿クロコダイルに入る。今日はサルサバンドのライブ。一時間ほどリハをや って、近くの台湾料理屋で腹ごしらえ。コンガの飯山さんがたくさん注文するのでちょ っとびっくり。  8時からライブが始まったが、寒波のせいかいつもよりお客さんが少ない。だが、ダ ンスの先生をしている女性がステージで踊ってくれて、場は結構盛り上がった。ありが たいことです。結局、お客様は30名弱だったが、ダンスの先生の生徒さんたちを含め てアットホームな和気藹藹とした雰囲気に包まれた。お店には悪いが、こういうのもた まにはいいのではないか。
1月21日(土)  午後、神奈川県立近代美術館のベン・シャーン展に向かったが、葉山遠し。途中で間 に合わなくなってしまい、引き返す。何ともマヌケな展開。でもまあ、行き帰りの電車 の中で恩田陸『夢違』が読めたからいいか。集合無意識を新しい位相で捉えた傑作。  気を取り直して、J−FLOWの多田誠司セッションへ。多田さんは日本を代表する サックス・プレイヤーだが、間近で音を聞いて、驚いた。厚くて輝きのあるトーンやす ばやいパッセージでも乱れないテクニックは、このレベルの人には当たり前なのだろう が、それ以上にすごいのは「余裕」である。いつも余裕しゃくしゃくで、隙がない。思 いついたアイディアを120%膨らませる余裕が、彼の演奏態度からうかがえた。余裕 をもって、音楽を思わぬ方向に発展させては、さりげなく戻ってくる。やっぱり、いっ ぱいいっぱいになってしまってはダメですね。いやあ、思い知らされました。多田さん と並んでステラを演奏できて、本当に嬉しかったです。  ピアニストの安藤久美子さんと久しぶりに会えたのも嬉しい。安藤さんの演奏は以前 より力強くなっていた。最初は10人くらいの入りだったが、最後は満員。緊張感のあ る、楽しいセッションでした。
1月20日(金)  岩崎書店の「怪談えほん」シリーズの近刊『いるの、いないの』を対象にした京極夏 彦先生のインタビュー収録のため、先生の仕事場へ。駅からタクシーでちょっとかかっ たが、閑静な住宅街の中にあるすばらしいお家だった。階段にかわいい置物があって、 そのユーモラスな佇まいに惹かれる。  インタビューでは、もちろん自作の工夫について丁寧にお話し下さったが、それ以上 に、絵本というものの役割についてのお話がユニークで興味深かった。詳細は後ほどア ップするインタビュー記事を読んで欲しいが、小さな子供がどういう世界の捉え方をし ていて、それに対して作家としてどういう対応をすべきかを非常にしっかりと考えてお られる。ページを「めくる」行為の意味、紙の本の特質など、参考になることばかり。 編集者の人に一度レクチャーされてみてはいかがだろうか。  岩崎書店さんのチームもいらしていて、「怪談えほん」シリーズの見本を持ってきて 下さっていたが、恒川光太郎『ゆうれいのまち』、加門七海『ちょうつがい、きいきい』 の出来の良さにも驚いた。恒川さんのは新感覚の昔話という感じ、加門さんのはドギモ を抜くというかハチャメチャな面白さがあった。そして画家の方々が全員、全力投球。 怪談は創作意欲をそそるのだろうか。  とにかく、良いインタビューを収録できて満足。京極先生、そしてインタビュアーの 東雅夫さん、ありがとうございました。
1月14日(土) 午後、詩の合評会。7名の方が集まった。それぞれに技巧が達者で面白かったが、一 つ気になることが。せっかく素敵なアイディアを思いついているのに、それを発展さ せる時、既存の現代詩の形式に押し込めようとしてしまうので、結果的に不自然な印象 を与えてしまう作品があった。本来なら、書きたいアイディアに合う形式を模索する ところを、完成度を優先するがために、一定の形式の枠に無理やりアイディアを詰め込 んでしまう。個性が希薄になってしまって、とても残念だ。「現代詩スタイル」という ものにもっと警戒感を持って欲しいな、と思ってしまう。  夜、詩人の今井義行さんと食事。今井さんは重い鬱病を患っていて、今なお通院中 だが、以前よりはかなり回復してきた。彼はその苦しい体験を『時刻の、いのり』と いう詩集にまとめている。これは感動的な詩集だ。今井さんとは、もう二十年以上の つきあいだが、最近会っていなかった。  7時過ぎに今井さんの住む西大島駅で降りる。約束まで少し時間があったので西大 島の街をぶらぶら歩いた。生き生きした下町の匂いがする街だ。生活しやすそうだな と思った。今井さんによれば、外国人が多く住んでおり、物価も少し安いのだという。 久しぶりに会った今井さんは、少し太っていらしたけれど元気を取り戻しつつあるよ うで、話しぶりもしっかりしていた。  近くのインド料理屋に入り、ビールと肉を注文。料理は辛いがおいしい。お互いの 生活のこと、詩集のこと、現在の詩の状況について話した。苦しい時期を乗り越えて きただけあって、どの話題でも味のある見解を披露されていた。実は近々、今井さん と詩に関する企画を行おう予定なのだが、考え方に共通するところが多く、改めてそ のことを嬉しく思った。  楽しかったので終電ぎりぎりまで話し込んでしまった。店員さんは皆インドの方ば かりだったが、嫌な顔ひとつされなかった。さすが下町という感じだ。  さて、企画はどうなりますことやら。お楽しみに。
1月8日(日)  昼頃、古い詩誌の整理。せっかくいただいたのに申し訳ないが、スペースを取って 仕方がないので一部を処分する。詩が載っているものを捨てるのは何だか嫌な気分で すね。  夕方、西洋美術館にゴヤ展を見に行く。これは予想以上に面白かった。メジャーな 作品は「着衣のマハ」くらいで、版画や素描の連作が多かったが、これらが全てとて も面白い。風刺の効いた「ロス・カプリチョース」、ナポレオン戦争下の民衆の悲惨 をテーマにした「戦争の惨禍」、闘牛のシリーズなど、現実のグロテスクさを克明に 描く絵筆の迫力に圧倒される。意味の作用が複雑で、絵を見るというより、短編小説 を読んでいるような気分になってくる。ホフマンやゴーゴリと同時代人だというのが よくわかる。「醜」を描いて魅力ある絵画に仕立てることができるのがゴヤの強みだ ろう。貴族の肖像画も、美しさよりも個性を際立たせるところに特徴がある。猫の喧 嘩を描いた一枚は、まるで悪魔同士の争いのように見えて面白い。猫もかわいいだけ でなく、本気で喧嘩する時は結構怖い顔をしているが、本当によく見ている。  夜、サルサバンドの今年初の練習のため経堂のスタジオへ。
1月7日(土)  今日もJ−Flowでジャムセッション。サックスの人が多く、他はピアノ、ドラム ス、ハーモニカ。ベースはホストの人だけだったが、積極的に仕掛けてくるベース で面白かった(初心者はちょっとつらかったか?)。みんなまずまずうまい。ハー モニカのプレイヤーがトゥーツ・シールマンツそのものだった。
1月6日(金)  あけましておめでとうございます。  今年もどうぞよろしくお願い致します。  31日に帰省し、3日の夜に東京に戻った。特に何をするでもなくて、おせちを 食べたり、妹夫婦と挨拶したり、読書したり、コルネットの練習をしたり、猫と遊 んだり、散歩したりした。例年の通りだ。  甥っ子は今年大学受験だが、ノーテンキな顔をしていたのでかえって安心した。 アメリカにいる姉と電話で久しぶりに話した。姉の家族は皆元気なようだが、娘の 友人に家庭崩壊した子がいて、面倒をみているということだった。家庭崩壊のスケ ールが大きすぎてびっくり。父母は達者だったが、父の方は関節の具合が悪くなっ ているようだ(くれぐれも無理をしないで病院に行くように言っておいた)。それ と、ぼくが急に婚活を宣言したりしたので(笑)、驚いていた。  大塚英志・宮台真司の対談集『愚民社会』(太田出版)を熟読した。彼らの社会 に対する提言自体は他の本などである程度知っており、新たに知ることがそう多い わけではなかったが、彼らの戦略性や立ち位置についての言及は今までにない明確 なもので、その意味では画期的な本と言える。あえて「ベタ」でいく大塚と、「ネ タ」を通して本音を語る宮台。「ベタ」が「ネタ」にもなり得ると考えるか、なり 得ないと考えるかで、主張内容が大きく分かれていくのだが、根っこのところでは ほぼ同じ問題意識を共有している。基本的には、国家・地域・個人の自立がテーマ になっている。是非ご一読いただきたい。特に、大塚が柳田國男が農政を司る者と して、農家の自立と知的な社会参加を促していたとする主張が興味深かった。柳田 が推進していた怪談文芸は、農家の自立(経済的に自立するためには文化的な柱が なければならない)と表裏一体だったのではないかと考えさせられた。  暇にまかせて結構長い時間散歩した。以前散歩した時は伊勢原の街は随分寂れて しまった印象を受けたのだが、今回は逆に意外と頑張っているという気がした。確 かに工場地域はやや寂しくなっている。しかし、住宅街には新しい家も結構建って いて、生活する場所としてはそこそこ栄えているのではないか。隣の厚木市はバブ ルの頃の賑わいから考えると潮が引いたような有様だが、伊勢原市はバブルの恩恵 をさほど受けなかったからか、街としての基本的な骨格は失われていない。商店街 もちゃんと残っている。  猫のファミとレドだが、性格がだんだん変わりつつあるようだ。2匹とも甘えん 坊度が増してきて、ノラ猫出身という感じが薄れてきた。寝ているようでいて実は 常に人間の動静を気にしており、例えばぼくがひとりで二階で本を読んでいたりす ると、階段を上って様子を見に来たりする。レドはともかく、ファミの方は割と独 立独歩な感じだったのだが、ここにきて急に人間に擦り寄るようになってきた。ま あ、外は寒いし、獲物もないから、冬季限定で甘えん坊になっているのかもしれま せんが(笑)。まあ、何にしても猫はかわいいもんです。  東京に戻って翌日、最近よく行くジャズの店J−Flowへ。ジャムセッション専門 の店だが、運営がしっかりしていて、その日はニューヨーク帰りのアルトサックス 奏者原川誠司がセッションリーダーをつとめていた。まだ若いけれど、歌い回しが 非常に安定していて、パワーもある。横で一緒に吹いてくれるのだが、歌い回しと いう点でとても勉強になった。来ていたお客さんもうまい人が多い。この日は、サ ックスとトランペットの人が多かったが、皆経験が豊かな人ばかりだった。この店 にはしばらく通いつめようと思っている。