2012年11月

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11月27日(火)
 用事で行けなくなった友人の守屋さんから譲っていただいたチケットで、ヤ
ンソンス指揮バイエルン放送交響楽団のコンサートへ(サントリーホール)。
 曲目はベートヴェンの1、2、5番。やや早めのテンポによる、きびきびと
メリハリの効いた快演。ベートーヴェンの音楽が、緩急、強弱、静動の対比の
妙でできていることを教えてくれる演奏だった。オーケストラもうまく、とに
かく聞いていて気持ちが良くて仕方がない。もっと粘っこい演奏が好きな人も
いるだろうが、こうしたジャズのビッグバンドのようなノリの良いベートーヴ
ェンの演奏もあってしかるべきだ。特に1番2番の出来が良く、30代前半の
ベートーヴェンの野心や意気込みがストレートに伝わってくるような感じがし
た(ただ、5番はもう少し中間色もあった方が良かったかもしれない)。
 アンコールのハイドン「セレナーデ」もきれいだった。 

11月25日(日)  初台のオペラシティミュージアムで開催中の篠山紀信展「写真力」を見る。  篠山紀信は有名な写真家だが、美術館でじっくり見る機会は意外に少ない。 今回の個展は、デビューから現在までの作品を篠山自身が選んだものだ。篠山 紀信の写真は基本的に商業写真であり(芸術写真系のものであっても)、写真 家自身の内面世界が投影されることはない。だから大衆に愛されていても、そ の芸術的価値が論じられることは少なかったように思う。今回の回顧展は篠山 紀信の「作家」性をアピールする点で意義のあるものだろう。  会場に到着すると、チケットを求める列ができていて、人気の程が伺える。  美しい女優やダンサーを撮った写真、歌舞伎役者を撮った写真、ディズニー ランドを撮った写真、震災時の福島の人々を撮った写真と、バラエティが豊か だった。第一印象としては、対象を輝かせることを第一に考えて撮っている、 というところだろうか。多種多様な技巧を使いながら、被写体が最もカッコよ く、セクシーに「映える」瞬間をひたすら追い求める点が一貫している。自分 を写真の後ろに隠すという点では、むしろ謙虚な姿勢の写真だと思う。商業的 な成功を狙って作られた写真なのに嫌味が全くない。福島の人々を撮った写真 では、背景の瓦礫の山はぼかし、生き延びたことの幸せや決意を感じさせる表 情を柔らかく捉えているのが印象に残った。報道写真のような刺激をあえて排 除しているのが面白い。  見終わって帰宅し、ちょっと昼寝。夜はサルサバンドの練習へ。
11月24日(土)  彼女と御岳渓谷をハイキングする。10時に立川駅で待ち合わせ、11時前 に軍畑駅に到着。思ったより近かった。  さすがに空気が良い。ばくは散策が好きだが、特に川辺を歩くのが好きで、 水がゆったりと流れているのを目にしていると心が和んでくる。11月も後半 なので紅葉がいっぱいかと思ったが、そうでもなく、まだまだ木々の葉は青い。 そして時折はっとするほど美しく鮮やかな黄や赤が混じる。紅葉の季節の始ま りの初々しさが風景の中に感じられた。川べりの遊歩道をずっと歩き、岩場に 出たり、水の近くに行ったりして、とにかく景色を楽しむ。  やがて長い橋を渡って寒山寺を見学。中国から贈られたというお寺で、小ぶ りだが中に入るといかにも中華風なきれいな壺を見ることができる。その後、 櫛かんざし美術館へ。その名の通り、江戸から昭和までの櫛やかんざしがたく さん展示されている。どれも洗練されたデザインで、時を経ても少しも古くな っていない。明治・大正期の品は、西洋のデザインを和風のデザインに平然と 取り込む離れ業も見せる。男性でも楽しめる、穴場の美術館だ。  お昼になって、ままごと屋という和食の店へ。ざる豆腐の定食を注文。これ が絶品。水がきれいなために豆腐造りが盛んなようだが、濃厚な味が楽しめる。 おからもおいしい。地酒もちょっと飲んでいい気分に。  再び川べりを歩きに歩く。彼女が魔法瓶に入れてきてくれたミルクティーを 飲んで休み、写真を撮って、玉堂美術館へ。皇后にも絵を教えた昭和の日本画 家の作品を集めた美術館だ。  4時近くなり、少し休んでから御嶽駅へ。絶景とおいしい空気を名残惜しく 想いながら東京行きの電車に乗る。
11月23日(金)  東雅夫さんによる江戸怪談に関する講演を聞きに、浅草橋のparabolica-bis へ。今野裕一氏が聞き手となり、江戸怪談の名作の成り立ち、歌舞伎や落語と の関連、更に江戸初期の怪談文芸のことなど、様々な話題が語られた。怪談が 1級のエンターティメントであることが強調されており、江戸の文化が現在と 変わらない部分を持つこと(と言うより、我々の文化が江戸文化に負うところ が多いこと)に改めて驚いた。初期の怪談が、中国の怪奇小説などを素材に、 お寺などで信者を集めるために面白く語られていた、という話は初耳で興味深 かった。その事情を、門賀さん辺りが本にまとめてくれないだろうか?  聴き終わって東さんに挨拶をし、中華料理屋で食事した後、錦糸町のJ−F LOWでジャムセッション。
11月18日(日)  彼女と一緒に、結婚式を予定している神社に打ち合わせに行く。  その前に、父の友人の染織作家、奈良由紀子さんの個展を見るために吉祥寺 のギャラリーへ。紐を大胆に編んだり組んだりして作られた、温かみのあるテ キスタイル作品で、ユーモアにも富み、とても楽しめた。よく見ると現代美術 のようなシャープな感触もあり、様々な試行錯誤の末にこの童話のような世界 が創られていったのだろうと納得する。以前の展覧会で、大きな鳥の形をした 作品に小学生の女の子が魅せられて、一週間通いつめて見てくれた、との話も うかがう。彼女は、婚約のお祝いに素敵な作品を一つプレゼントされた。  その後、御茶ノ水に急ぎ、神田明神でスケジュールの概略や、やらなくては ならないことの説明を受ける。途中、実際の結婚式のセレモニーも見ることが でき、満足。  神社近くの蕎麦屋で昼食を取り、銀座へ。  ティファニーでイニシャルの入った婚約指輪を受け取る。キラキラしていて 美しい。店頭でマリッジリングも覗き、更に、和風のデザインで知られる宝石 店「俄」にも寄る。他の店にはないユニークな感覚が光るマリッジリングに、 ぼくも彼女も魅了された。  詩人の北爪満喜さんの写真展が近くでやっているので足を伸ばす。物語のシ ーンのような、柔らかな表情の中に意外性のある作品群だった。  喫茶店に入って休み、買ったばかりの婚約指輪を彼女につけてもらう。いい 感じだ。恥ずかしがっていたが、記念の写真も撮る。  忙しく、充実した二日間だった。
11月17日(土)  早稲田大学でキャンパスで行われた昭和文学会秋季大会「詩と大量消費」の 鈴木志郎康さんの講演を聞きにいく。早稲田大学の構内は広いので迷ってしま い、少し遅刻してしまった。志郎康さんのテーマは「庶民意識の突出 一九六 〇年代から七〇年に掛けての鈴木志郎康の詩」というもので、『家庭教訓劇怨 恨猥雑篇』周辺の、過激な詩を書いていた頃の気分を話されていた。志郎康さ ん自身の若い頃、学生時代から就職してしばらくの時期の様々なエピソードが 面白かった。勤務先だったNHKの意外な実像(タイムカードが給料順に並んで いた、など)に驚かされた。志郎康さんに関しては、昔から好き勝手に生きて こられたんだなあ、という感じ。予備校に行く振りをして図書館で文学書を読 みふけったり、会社の指示に逆らったりと、やりたい放題。今だと管理がどん どん厳しくなっているので、こういう自由奔放な行動はできないのではないだ ろうか。  講演終了後、書肆山田の鈴木一民さん、詩人の渡辺洋さん、さとう三千魚さ ん、古川ぼたるさんと挨拶。古川さんとは初対面で、お会いできて嬉しかった。  その後、新宿駅のロマンスカーカフェで彼女と落ち合い、実家へ。両親に結 婚の意志を固めて婚約したことを報告し、一緒に食事する。両親はとても喜ん でくれた。彼女に、猫のファミ、レドにも会ってもらえた。  食後、柿を土産にもらい、彼女と一緒に東京に帰る。
11月11日(日)  鈴木志郎康さん、今井義行さんとの鼎談「<現代詩>をもみほぐす」の最終 回である第三回をやりに、渋谷カンファレンスセンターへ。今日の議題は戦後 詩の再検討と詩とメディア。ぼくは実はこの2、3日重い風邪をひいていて体 調は万全ではなかったのだが、二人の詩人の顔を見ると、「よし頑張ろう」と いう気になってくる。  テーマが盛りだくさんなだけに、喋っても喋っても足りず、一時間延長して 5時間しゃべり、それでも不完全燃焼な部分があったりした。志郎康さんも今 井さんも反権威的な考えの持ち主なので、言いたいことが遠慮なく言えるのが 何とも気持ちいい。  終わってヘトヘトになったが、ホテルのレストランに寄ってまた結構詩の話 をしてしまった。  帰宅すると治りかけていた風邪がややぶり返していて熱もある。サルサバン ドの練習は休むことにして、即床につく。
11月6日(火)  退社後、六本木サテンドールにドラムスの奥平真吾をリーダーとするバンド THE FORCEを聞きに行く。メンバーは他に宮川純(P)、生沼邦夫(B)、太田 剣(A s)。 奥平真吾の演奏は、彼がまだ20歳そこそこだった頃に、高橋信博(ギタ ー)のバンドで聞いたことがあった。その頃は、トニー・ウィリアムズのコピ ーバリバリの、超絶的テクニックで鳴らす新主流派ドラマーという感じだった が、40代になった今は、より落ち着いたスタイルとなっている。とは言え、 テクニックは若い頃以上で、細かい箇所に独自のアイディアを凝らした繊細な 叩き方に変わっていた。そしてここぞという時は豪快に鳴らす。天才少年とい うのは伸び悩み、どうかすると消えていってしまったりするのだが、彼はちゃ んと音楽を成長させていっている。すばらしいことだと思った。若手から中堅 のメンバーも皆伸び伸びしていて良い。  ビールと水割り、パスタ、ピザを飲食し、いい気分で帰宅。
11月3日(土)  ご報告ですが、おつきあいしていた女性と婚約の運びになりました。結婚情 報サービスで知り合った女性ですが、最初にメールのやりとりをした時からと ても気が合い、デートを重ね、相手のご両親にも挨拶し、お会いしてから8ヶ 月目に婚約ということになったわけです。この歳になってこんないいことがあ るなんて、ちょっと信じられません。お互い幸せになれるように頑張ります。  さて今日は婚約指輪を買いに行く日。帝国劇場前でお昼に待ち合わせ、近く のレストランで食事。オムレツがおいしかったです。それから出光美術館に琳 派の名作を集めた展覧会を見る。酒井抱一の作品が多かったが、細密な描写と 想像力を刺激する空間の使い方、大胆な装飾性に圧倒される。琳派の作品は昔 から好きなのだが、同時代のヨーロッパにも全くひけを取らない先進性、前衛 性が感じられる。こんな新しいものの見方があるんだぞ、まいったか、という 感じである。まいった、まいった。特に草木の絵がすばらしい。超現実性が感 じられる。  見終わって、メインイベントの指輪探し。彼女が事前に調べてきた店を丁寧 に回る。彼女は大学の事務局に勤めているので、事前調査に関しては実に手際 が良い。男性であるぼくは、きらびやかな宝石店の中にいると場違いな気がし ておどおどしてしまったが、品々を見ると、本当によくできているものだなと 思う。店員が出てきて、ダイヤの指輪の見方を説明してくれる。最初の店は彼 女が前にも利用したことのある店で二階が婚約指輪専門のフロアだった。精選 された指輪が陳列されている。彼女が求めているのは、中央の石の横にもダイ ヤが細かく散りばめられているタイプのもので、遠目にもキラキラしている様 がよくわかる。説明をじっくり聞くと、ちょっと詳しくなってきて、次の店、 また次の店に行く頃にはちょっとした専門家気分になっている(笑)。全部で 6店回るはずだったが、4軒めのティファニーでおメガネに叶ったリングを発見。 当初の予算よりちょい高めだったが、ここでケチる程バカではない(笑)。い いよと答えると、ではこれでお願いしますということになった。石が丸くカッ トされた、ティファニー伝統の最もスタンダードな指輪だった。シャープなデ ザインの魅力的な指輪もあったが、柔らかい雰囲気が彼女にはこちらの方が似 合っている。決めた途端、彼女がハンカチを取り出して額の汗を拭ったのには 驚いた。どうしたの、と聞くと、急に緊張してきた、とのこと。一生モノです からね。カードの限度額を超えていたので、近くの銀行でお金をおろし、現金 で支払う。3週間弱でサイズの調整やイニシャル彫りが終わるそうだ。6店全 部見て回ってから決断するのかと思ったら、意外と早く決断したのに驚いた。 直感を信じるタイプなのだろう。そういうところも改めていいなと思った。  次はお返しを買ってもらわなければなりません(笑)。指輪のお返しに楽器 を買ってもらうことになっていたので、行きつけの店である新大久保のクロサ ワ楽器へ。実はもう既に目星がつけてある。丸っこい顔の若い女性店員に幾つ か楽器(トランペット)を出してもらって試奏。これがなかなか面白くて、彼 女が座って待っているのに、夢中になって試し吹きしてしまいました。結局決 めたのは最初にツバをつけていたヤマハのXenoシリーズの8335RGS。上から下ま で均一に音が出て機能性に長け、細かいフレーズもきれいに響く。ぼくも「定 番」を選んだというわけ。  その後、新大久保の韓国料理屋で食事。春雨炒めと鍋を注文。ちょっと辛か ったがおいしかった。久しぶりに飲んだマッコリも甘くておいしい。彼女とは 知り合って半年ちょっとのはずなのだが、長年つきあった恋人のように何事に 関しても気が合うし、信頼できる。これからもよろしくお願いします。