関口涼子との往復書簡2
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第2回目のメール 新年あけましておめでとうございます。 ご丁寧なお返事ありがとうございました。とても勉強になりました。 文化に対する補助という点でいくと、日本では国の押し付けがましさのほうがめだって しまったりするのですが、さすがはフランスですね。国家と民衆がより親密な関係にある のでしょう。フランスの詩の出版流通が少しわかってきたような気がしました。もう少し うかがってもよろしいですか。 フランスでは書籍は基本的に買切・自由価格制ですよね? 日本では再販維持制度(定 価販売を義務とし、値下げ等を認めない制度)があり、取次を通した委託販売が基本( 返品可の場合が多い)のため、詩集でも取次とパイプを持っている思潮社の現代詩文庫の ようなものなら、地方でも少し大きな書店に行けば楽に入手できます。但し、日本の書店 では返品もいくらでもできてしまうため、よほど担当者がしっかりしていないと詩のよう な動きの遅いものはまともに扱われていないのが現状です。 フランスの書店では詩集に関し、どのような棚作りがなされているのでしょうか。 また日本ではインターネットを通じ、現代詩の流れからはずれたところで詩のコミュニ ティができるようになりました。漫画の「コミケ」にならった自費出版詩集や同人詩誌を 売買する自由市場「ポエケット」なるものも登場してなかなか人気を呼んでいるようです。 但し、そこには批評というものが存在しないので、残念ながら質的にはまだまだといった ところです。こういうものはフランスには存在しますか。 日本では権威的な詩壇の現代詩とポップソングの歌詞のようなネット詩の系列に二分さ れている感じですが、そのどちらにも属さないで自分の興味のままにコツコツ詩を書いて いる若い人たちもいます。野村尚志、坂輪綾子、奥野雅子、杉澤加奈子といった人たちで すが、この人たちの作品というのはものすごく面白い。コミュニティから相手にされなく てもかまわない、という態度を貫いているため、言葉のオリジナリティが極度に高い。い わゆる純文学からも大衆文学からも背を向けた独自の文学が育っている感じでぼくはいつ も胸をドキドキさせて読んでいます。彼らの特長は、「社会人としての個人」という立場 から離れた地点で自由に各々の個を存立させていることです。社会的な価値基準を一顧だ にせず自分の感性を先鋭化することにのみ集中している。これらの日本の詩のすごさは「 こども文化」のすごさだとぼくはおおざっぱに認識しています(但し皆非常に孤立して書 いているため一般読者の目に入る機会はまずありません)。 フランスの若い詩人たちはどんな詩を書いていますか。 関口さんが注目している人はいますか。 また、パリには様々な文化圏から来た様々な人種の人が生活していると思いますが、その 人たちがフランス語で書いた詩に面白いものはありますか。 お教えいただければ嬉しいです。 辻和人
関口さんからの2回目の返信 私の個人的印象のような説明が役に立つのかどうか分かりませんが、こんな感じでよい なら、いつでもどうぞ。 > >フランスでは書籍は基本的に買切・自由価格制ですよね? 日本では再販維持制度( 定価販売を義務とし、値下げ等を > > 認めない制度)があり、取次を通した委託販 売が基 本(返品可の場合が多い)のため、 フランスでも、基本的には自由価格制なのですが、文学とか、ある程度きちんとした出 版社は値下げしないみたいです。というか本屋にそれを許さないのか、その辺の内幕は寡 聞にして知らないのですが、値下げをする本を扱っている本屋さんって決まっていて、そ こで売られている本は主に美術本(でかくて値段も張る)、実用本、雑誌のバックナンバ ーといったものが主です。文学がおいてあるときには、つぶれてしまったコレクションと か、なくなってしまった出版社のが多いようです。そうでなければ一律どの本も10パーセ ント引きとか(例えば大学出版社の本屋。日本の大学生協とは違って、学生証を見せれば 会員でなくても割引になる)、大規模書店やアマゾン.frのように一律新刊は5パーセント 引きとか、小さい本屋のように汚れている本は5パー引くとか、小さな範囲での割引はし ているみたいです。なんて言ったか、名前を忘れてしまったのですが、自由価格制廃止を 働きかけた出版人がいて、それは70年代終わりから80年代の話なのですが、動きとし ては、特に文学など文化的な分野の本としては、緩やかな(暗黙の了解としての)定価制 に変わったのでは、と言う感じがしています。あくまでも印象にすぎませんが。(注・こ の後1月18日付のル・モンド書評欄でこれに関する記事を読んだので要約します。定価 制を巡る騒ぎの火付け役となったのは1974年に開店した書店フナックで、他の本屋よ りも平均20パーセント低い値段をつけたためにこれに反発した出版社のミニュイ社社長、 ジェローム・ランドンが定価制の導入を働きかけ、これが出版社・本屋の間にも定価制賛 成陣・反対陣をつくってそれぞれロビー活動をおこなうという展開を見せました。それま では、本は、出版社が「推奨価格」をつけ、本屋はそれを大体目安として自由に価格をつ けていいということだったのです。定価制への働きかけにもかかわらず自由価格制推進派 が主流となり、それが1979年に完全自由価格制(「推奨価格」もつけない)という事態に まで及びますが、これは本屋におおきな混乱を巻き起こし、また印税をどうやって計算す るのかというやっかいな問題も引き起こしました。その反動から、1982年に定価制が法制 化されたのですが、法制化当初は、結果的に書籍の価格上昇を許した、という強い反発が 消費者側からあったようです。これは大型書店と出版社の間に軋轢も生むことになったら しく、法制化後もこの法律をおおっぴらに破り続けるチェーン店スーパーマーケットが存 在したりと10年間くらいは定価制は批判されていたようですが、最近はすっかり定着し た感を見せている、とのことでした。この制度は今年丁度20年目を迎えたので何かと取り 上げられているのだと思います。 > >但し、日本の書店では返品もいくらでもできてしまうため、よほど担当者がしっかり していないと詩のような動きの遅> > いものはまともに扱われていないのが現状です。 フランスでも、フナックのような大規模チェーン書店では、返品できることになってる みたいです(と聞いた)。どの出版社の本もそうなのかは分かりませんが。 とりあえず、ご返答の第一段で、また、続き書きます。 関口涼子